カワサキ・GPX750R

カワサキ GPX750R：革新と快適性の融合

カワサキGPX750Rは、1986年から1989年にかけて製造・販売された、カワサキ重工業が送り出したオートバイです。北米ではNinja750Rとして知られています。このモデルは、それまでのカワサキの750ccスポーツモデル、GPZ750Rの後継として登場しましたが、単なる改良モデルではありませんでした。GPZ750Rは、GPZ900Rの排気量を落としたモデルだったため、車重が重く、競合他社車種に比べて不利な面がありました。一方、当時のレースレギュレーションであるTT-F1クラスは750ccに制限されており、世界耐久選手権もこの規定に準拠していました。そのため、カワサキは750ccクラス専用設計の新型車開発を必要としていました。

レースと公道の両立を目指した開発

GPX750Rは、このニーズに応えるべく、カワサキ初の750cc専用設計モデルとして誕生しました。GPZ750Rと比較して乾燥重量を33kgも軽量化し、TT-F1を始めとするレースシーンでも活躍できるポテンシャルを備えていました。しかし、開発の目標はレース参戦だけではありませんでした。実用的な性能と快適性の両立も重視されていたのです。

他社は、アルミフレームや別体型メーター、シングルシートといった、いかにもレーサーレプリカ風のデザインを採用する傾向がありましたが、GPX750Rはスチールフレームを採用。これは、レース仕様に劣らず高い強度を確保しつつ、コストを抑え、量産車としての扱いやすさも考慮した設計です。また、視認性の高い一体型メーターや、タンデム乗車も可能なロングシート、そしてグラブバーの装備など、公道での快適性にも配慮した設計となっています。

バックミラーは、GPX750Rがカワサキ車種で初採用となり、その後、ZX-10、GPZ900R（A7以降）、GPZ1000RX（後期）、GPZ1100、ZZR250などにも採用されました。さらに、メーターパネルはGPX400Rと共通、フロントフェンダーはZX-10と共通というコスト効率の良い設計も取り入れられています。

1989年には、GPX750Rのパワーユニットを受け継いだZXR750が発売されました。ZXR750は完全なレーサーレプリカでしたが、日本国内ではGPX750Rとの併売はされず、GPX750Rは販売終了となりました。


先進技術の結晶

GPX750Rには、数々の先進技術が投入されています。まず、エンジンはGPZ750Rと比べて16kgの軽量化を実現し、全幅も31mm狭くなっています。サイドカムチェーンではなくセンターカムチェーンを採用し、バルブ機構も改良することで、エンジンの高回転化と軽量化が図られています。さらに、吸気効率を高めるH.I.TEC（ハイベロシティ・インダクション・テクノロジー）や、点火系レブリミッターを備えたRPMS（レッドライン・プラス・マキシマム・システム）を搭載するなど、エンジンの性能向上に重点が置かれています。

また、オートバイとしては初となるオルタネーターのベルト駆動システムであるDADS（ドライ・オルタネータ・ドライブ・システム）も採用されました。これは軽量で伝導効率が高いというメリットがありましたが、ベルトの張力調整や、ベルト切れのリスクも存在しました。

ブレーキシステムにも革新的な技術が導入されています。量産オートバイとして初めて異型2ポットキャリパーのBAC（バランスド・アクチュエーション・キャリパ）を採用し、リアキャリパーにはフローティングマウントを採用。これにより、制動力の向上と安定性の向上が図られました。

フレームはFAST FRAME（フェザーウェイト・アロイ&スチールテクノロジー・フレーム）と名付けられた、メインフレームとリアフレームから構成される新設計のフレームです。ハイテンション鋼管製のダブルクレードルタイプのメインフレームと、アルミ角パイプ製のリアフレームを採用し、スチールフレームでありながら13kgという軽量化を実現しています。また、フロントフォークには、電気式応答型アンチダイブシステムであるESCS（エレクトリック・サスペンション・コントロール・システム）を採用していました。

その他、チェーン調整機構、燃料計、方向指示器スイッチ、ライトスイッチ、ハザードスイッチ、ネームホルダーなど、多くの細部にも工夫が凝らされています。


モデルバリエーションとカラーリング

GPX750Rは、F1、F2、F3、F4のモデルバリエーションがあり、それぞれのモデルでカラーリングが異なっています。輸出仕様車では、日本国内仕様とは異なるカラーリングや、最高出力の向上などが施されていました。

レースでの活躍

GPX750Rは、全日本ロードレース選手権や鈴鹿8時間耐久ロードレースなど、数々のレースに参戦し、その高いポテンシャルを示しました。


GPX750Rは、レース性能と公道での快適性を両立させた、カワサキの技術力の粋を集めたモデルと言えるでしょう。多くの革新的な技術が搭載され、カワサキの歴史に名を刻んだ名車として、今も多くのファンから愛されています。

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