カワムラナベブタムシ

カワムラナベブタムシ

カワムラナベブタムシ（学名：Aphelocheirus kawamurae）は、カメムシ目に属する水生昆虫の一つで、ナベブタムシ科に分類されます。その名の通り、水中で生活する昆虫であり、日本の淡水生態系において特異な存在です。

分布

この昆虫は日本の固有種であり、生息が確認されているのは滋賀県の琵琶湖南部域と、そこから流れ出るごく一部の河川に限られています。非常に限定された狭い範囲にのみ分布しており、これが本種の絶滅リスクを高める要因の一つとなっています。

形態と生態

体長は7～8ミリメートルほどと比較的小型です。体は著しく平たく、円盤状をしており、この独特な形状が日本の伝統的な調理器具である「鍋のふた」に似ていることから「ナベブタムシ」という和名が付けられました。同じナベブタムシ属に分類される他の種は、体全体が黄色地に黒い斑紋を持つことが多いのですが、カワムラナベブタムシは頭部と脚部が鮮やかな黄色であるのに対し、胴体部分は黒いという特徴的な体色をしています。

渓流や湖沼の底に生息する底生生物であると考えられていますが、詳しい生態については未だ多くの点が解明されていません。過去には琵琶湖に生息する特定の淡水海綿からのみ発見された時期があり、そのため、カワムラナベブタムシが淡水海綿と共生するなど、特殊な生態を持つのではないかと期待されました。しかし、その後の研究や知見の蓄積により、現在では特定の生物に厳密に依存するような特殊な生態を持つ可能性は低いと考えられています。それでもなお、具体的な食性や繁殖方法、幼虫期の生活史など、詳細な生態は不明なままです。

保全状況

カワムラナベブタムシは、現在極めて深刻な絶滅の危機に瀕しています。環境省が定めるレッドリストにおいては、「絶滅危惧IA類（CR）」に位置づけられています。これは、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い種であることを示すカテゴリーであり、日本のレッドリストの中でも最も危機レベルが高いランクの一つです。

かつて本種の生息が確認されていた琵琶湖周辺の地域では、過去数十年の間に大規模な開発が進み、また水質汚染も深刻化しました。これらの環境変化が、本種の生息環境に壊滅的な影響を与えたと考えられています。その結果、驚くべきことに、1962年に確認されたのを最後に、それ以降今日に至るまで、半世紀以上にわたって一度もその姿が確認されていません。専門家の間では、すでに野生下では絶滅してしまったのではないかという懸念も強く持たれており、その安否が非常に危惧されています。

固有種であり、かつ極めて限られた地域にのみ生息していたこと、そして生息環境が開発や汚染の大きな影響を受けやすい水域であったことが、本種を絶滅の瀬戸際に追いやった主要因とみられています。現在のところ、確実な生息情報がないため、有効な保護策を講じることも困難な状況にあります。失われた生態系の象徴として、その動向が注目されています。

もう一度検索