カーチス R3C-2

カーチス R3C (Curtiss R3C)

カーチス R3Cは、アメリカ合衆国の著名な航空機メーカー、カーチス・ライト社によって開発された、速度を追求したレース専用の航空機シリーズです。1920年代半ばの航空技術の粋を結集して設計され、当時の航空レース界において目覚ましい活躍を見せました。本シリーズには、用途や改良によってR3C-1、R3C-2、R3C-3、R3C-4という複数のバリエーションが存在します。

各型の概要と戦績

R3C-1：陸上レースでの栄光

シリーズの最初の型であるR3C-1は、陸上機として設計されました。これは、主に陸上空港を発着する速度競技会での使用を想定していたためです。1925年10月12日に開催されたピューリツァー・トロフィー・レースにおいて、R3C-1はその性能を遺憾なく発揮しました。パイロットはサイラス・ベティス氏が務め、時速406.5キロメートルという当時の高速度を記録し、見事このレースで優勝を果たしました。この勝利は、R3Cシリーズの卓越した速度性能を示す最初の成果となりました。

R3C-2：水上レースと世界記録

R3Cシリーズの中で、おそらく最も広く知られているのがR3C-2型でしょう。この機体は、国際的な水上機速度レースであるシュナイダー・トロフィー・レースでの勝利を目指して、水上機として開発されました。1925年10月26日（※出典に10月6日とあるが、一般的に10月26日開催とされる）にメリーランド州ボルティモアで開催されたシュナイダー・トロフィー・レースには、3機のR3C-2がアメリカ海軍の代表として参加しました。中でも、後にアメリカ陸軍航空隊の著名な軍人となるジェイムズ・ドゥーリトル中尉が操縦したゼッケン3番の機体は、圧倒的な速さを見せつけました。ドゥーリトル中尉は平均速度374.274キロメートルを記録し、この年のシュナイダー・トロフィーを見事に制覇し、アメリカに栄光をもたらしました。しかし、同時に出場した他の2機、ジョージ・T・カディハイ中尉とラルフ・アンドリュー・アフツィー大尉の機体は、残念ながらレースを完走することができませんでした。
R3C-2の記録破りの性能は、シュナイダー・トロフィーでの優勝だけに止まりませんでした。レースのわずか一日後の10月27日、ドゥーリトル中尉は同じR3C-2で公式な速度記録に挑戦しました。この試みで彼は、時速395.4キロメートルという驚異的な速度を叩き出し、当時の水上機における世界最高速度記録を樹立しました。この記録は、航空技術の新たな地平を切り開くものであり、R3C-2の名前を航空史に深く刻みました。

R3C-3とR3C-4：次なる挑戦

1925年の成功を受けて、カーチス社はR3Cの改良を進め、翌1926年のシュナイダー・トロフィー・レースに投入しました。R3C-3型は、R3C-2のエンジンを強化するなどの改良が施された機体（機体番号A.7054）で、クリスチャン・フランク・スキルト中尉の操縦によりゼッケン6番をつけて出場しました。スキルト中尉は善戦し、時速372.34キロメートルを記録しましたが、この年はイタリアのマッキ M.39に敗れ、惜しくも2位に終わりました。R3C-3型は、R3C-2の改良型であることから、資料によってはR3C-2として扱われることもあります。
もう一機の改良型であるR3C-4型（機体番号A.6979、ゼッケン4番）も、1926年のシュナイダー・トロフィー・レースに登場しました。この機体は、前年のレースにも出場したジョージ・T・カディハイ中尉が再び操縦を担当しました。しかし、残念ながらレースの終盤である7周目と最終周回において燃料供給システムにトラブルが発生し、機体が水面に触れるアクシデントに見舞われました。これにより、カディハイ中尉は上位争いに加わることができず、レース結果に影響が出ました。R3C-3とR3C-4は、更なる高速化を目指した挑戦の機体でした。

R3C-2 主要諸元

歴史的な記録を樹立したR3C-2水上機は、以下の主要な性能および寸法を持っていました。

全幅: 6.71メートル
全長: 6.15メートル
離陸重量: 1,242キログラム
乗員: 1名
最高速度: 395.4 km/h (世界速度記録樹立時のもの)
エンジン: カーチス V-1400液冷エンジン （離昇出力 619馬力）

これらの数値は、1920年代という時代背景を考慮すると、その卓越した航空技術とエンジンの性能を示しています。

フィクションでの登場

カーチスR3Cは、その美しい流線型のデザインと輝かしいレースでの実績から、創作の世界においてもインスピレーションを与えています。特に有名なのは、宮崎駿監督によるスタジオジブリ制作のアニメーション映画『紅の豚』です。この作品に登場する主人公ポルコ・ロッソのライバルであるカーチス（原作漫画ではドナルド・チャックという名前）が搭乗する架空の機体「カーチスR3C-0非公然水上戦闘機」は、この現実のR3Cをモデルにしています。作中の機体は、フィクションならではの設定として機首に7.62mm機関銃2挺を装備しており、ベースとなったR3Cの速度性能に加えて、空賊を取り締まる立場としての戦闘能力が付加されたデザインとなっています。

結論

カーチスR3Cシリーズは、1920年代の航空レース、特に高速性能開発の歴史において非常に重要な位置を占める機体です。ピューリツァー・トロフィーやシュナイダー・トロフィーでの勝利、そして世界速度記録の樹立は、当時のカーチス・ライト社の技術力を世界に知らしめました。その優美な姿と伝説的なエピソードは、単なる競技用機としてだけでなく、後の航空機デザインや、時にはフィクションの世界にまで影響を与える存在となっています。

もう一度検索