カーミラ

『カーミラ』：魅惑と恐怖の吸血鬼物語

1872年、シェリダン・レ・ファニュによって世に送り出された『カーミラ』は、怪奇小説、ゴシックホラーの分野において不朽の名作として知られています。オーストリアのシュタイアーマルク地方を舞台に、19歳の若い女性ローラと、謎めいた美少女カーミラとの出会いを中心に物語は展開します。

ローラは裕福な家庭の娘ですが、幼い頃に母親を亡くし、寂しい生活を送っていました。ある日、城で奇妙な出来事が起こり始めます。それは、彼女の前に現れたカーミラという少女との出会いをきっかけとして始まりました。

カーミラは、不思議な魅力を放つ美少女ですが、その行動には不可解な点が多く見られます。彼女はほとんど食事をとらず、特定の宗教音楽に強い嫌悪感を示すなど、吸血鬼特有の性質を示唆する描写が多く見受けられます。

ローラはカーミラに次第に惹かれていき、彼女との奇妙な共同生活が始まります。しかし、カーミラの周囲では不可解な事件が頻発し、村では多くの女性が謎の病で亡くなっていくという事態が発生しました。

ローラは、カーミラの正体に迫るにつれて、過去の出来事や、祖先であるマーカラ伯爵夫人の肖像画との類似性など、さまざまな謎に直面します。そして、カーミラの正体は、ローラを初めとして周辺の村人たちに不幸をもたらす、恐ろしい吸血鬼であることが明らかになっていきます。

物語は、ローラの回想録という形式で書かれており、カーミラとの出会いから、彼女の正体、そして最終的な退治に至るまでの過程を、詳細に描写しています。カーミラを取り巻く怪異現象、そして、ローラ自身の心の葛藤が緊迫感あふれる筆致で描かれ、読者を物語の世界へと引き込みます。

ローラは、カーミラの行動や、周辺で発生している怪奇現象を記録し、その謎を解き明かそうと試みます。その過程で、彼女はカーミラとの複雑な関係性、そして、自身の存在そのものの危機に直面することになります。

物語後半では、ローラの父と、カーミラの叔父であるスピエルドルフ将軍が、カーミラの正体を突き止め、彼女を退治しようと試みます。彼らは、古くからの吸血鬼退治の方法を用いて、カーミラを倒すことに成功します。

しかし、カーミラとの出会いは、ローラに深い傷跡を残しました。物語の最後は、カーミラの影をいつまでも忘れられないローラの様子が描かれ、読者に深い余韻を残します。

『カーミラ』は、単なる怪奇小説としてだけでなく、同性愛的な要素を含む、心理的な深みを持った作品としても評価されています。カーミラとローラとの関係は、単なる恐怖や怪異の枠を超えた、複雑で多層的なものとして描かれています。この点が、後の吸血鬼小説に大きな影響を与えたと言われています。

また、この小説は1871年末から1872年初めに、文芸誌『ダーク・ブルー』に連載された後、1872年にシェリダン・レ・ファニュの短編集『In a Glass Darkly』に収録されて出版されました。現在でも多くの読者に愛され、翻訳も数多く出版されています。

『カーミラ』は、吸血鬼という題材を扱いつつ、人間の心理、愛憎、そして恐怖を深く掘り下げた、まさに傑作と言えるでしょう。その魅力は、現代においても色あせることがなく、多くの読者を魅了し続けています。

典拠と影響

『カーミラ』は、古くから語り継がれてきた吸血鬼伝説や、実際の事件を参考に書かれたと考えられています。1751年に書かれたドム・オーギュスタン・カルメットの論文や、エリザベス・バートリに関する記述、そしてコールリッジの『クリスタベル』なども、その創作に影響を与えたと考えられています。

特に、バジル・ホール大尉の『シュロス・ハインフェルト、あるいはシュタイアーマルク地方の冬』は、シュタイアーマルクの描写に大きな影響を与えたとされており、プルグストール伯爵夫人ジェーン・アン・クランストゥーンがカーミラとローラのモデルになったという説もあります。

翻案作品

『カーミラ』は、映画、ラジオドラマ、漫画など、さまざまな形で翻案されています。これらの作品は、それぞれ独自の解釈を加えながら、原作の魅力を現代に伝えています。

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