カール・ホルツ (ヴァイオリニスト)

カール・ホルツ

オーストリア出身のヴァイオリニスト、カール・ホルツ（1799年 3月3日生 - 1858年 11月9日没）は、19世紀ウィーンの音楽界において、特に弦楽四重奏の分野で活躍した人物です。彼は歴史的なシュパンツィヒ四重奏団に所属し、また偉大な作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの生涯最晩年にその秘書を務めたことでも知られています。

初期キャリアとシュパンツィヒ四重奏団

ホルツの音楽家としての歩みは、1819年にヴァイオリニストのヨーゼフ・ベームがウィーンで結成した弦楽四重奏団に、第2ヴァイオリン奏者として加わったことから始まります。この頃、彼は同時にオーストリア政府の公務員としても勤務していました。

1823年、数年ぶりにウィーンへ戻ってきたのが、ヴァイオリニストのイグナーツ・シュパンツィヒでした。シュパンツィヒは1790年代からウィーンを拠点に活動し、ベートーヴェンの初期の重要な弦楽四重奏曲（作品18）の初演を手がけるなど、ベートーヴェンとは長年の友人関係にありました。ベームの四重奏団が解散した後、ホルツはシュパンツィヒが再結成した名門四重奏団に加わることになります。

当時、ベートーヴェンは1810年の作品11以降、弦楽四重奏曲の作曲から遠ざかっていましたが、1824年にロシアのニコライ・ガリツィン王子からの委嘱を受け、再びこのジャンルに新たな生命を吹き込むことになります。依頼された3曲の後期四重奏曲のうち、最初に完成した第12番は翌1825年、ホルツが所属するシュパンツィヒ四重奏団によって初演されました。この四重奏団はその後も、ガリツィン王子から委嘱された残りの2曲、第13番と第15番の初演を担い、ベートーヴェンの後期における傑作群の誕生と普及に深く関わりました。

ベートーヴェンの秘書として

ホルツはベートーヴェンの写譜士としても働いていましたが、1825年に当時の秘書アントン・シンドラーが解雇された後、ベートーヴェンの秘書業務を引き継ぐことになります。ベートーヴェンがホルツに送った手紙や、聴覚障害が進行したベートーヴェンとの筆談によるコミュニケーションが記録された会話帳からは、ホルツがベートーヴェンの音楽を深く尊敬し、その創作活動や日常生活において非常に献身的な助けとなっていた様子がうかがえます。

翌1826年にはシンドラーがベートーヴェンと和解して再び彼の元に戻ってきましたが、ホルツはその後もシンドラーと共に、ベートーヴェンの晩年の複雑な事務処理や対外的なやり取りを支えました。

後にホルツは音楽学者のルートヴィヒ・ノールに対し、ベートーヴェンが後期四重奏曲を作曲していた当時の様子を詳細に語っています。彼は、ガリツィン王子からの委嘱曲に取り組む傍らでも、ベートーヴェンの創造力が尽きることなく溢れ出し、新たな着想が次々と生まれたため、まるで本人の意に反するかのように、嬰ハ短調（第14番）やヘ長調（第16番）といった他の四重奏曲も並行して作曲せざるを得ない状況だったと述べています。また、共に散歩している際にベートーヴェンが目を輝かせながら「君ね、私は今新しい着想を得たよ」と喜びを露わにし、すぐにスケッチ帳に書き留めていたという、作曲家が生み出す瞬間の活気あるエピソードも伝えています。

特に、変ロ長調四重奏曲（第13番）の第5楽章「カヴァティーナ」については、ベートーヴェン自身が最高の成果であり、最も愛着のある作品だと語っていたことをホルツは証言しています。ベートーヴェンが1825年夏にこの曲を作曲した際、憂鬱な気持ちで涙を流しながら書き上げたこと、そしてその曲を思い出すたびに再び涙が込み上げてくるほど感情移入していたことを、ホルツはベートーヴェン本人から直接打ち明けられたとして伝えており、これはベートーヴェンの後期作品に込められた深い精神性を示す貴重な記録となっています。

ベートーヴェン没後

ベートーヴェンの死後も、ホルツはウィーンの音楽界で活動を続けました。1829年には、1819年から開催されていた主要なコンサートシリーズ「Concerts Spirituels」の指揮者に就任し、指揮者として積極的にベートーヴェンの作品をプログラムに取り上げ、その普及に貢献しました。

1830年にイグナーツ・シュパンツィヒが亡くなると、ホルツは同じシュパンツィヒ四重奏団のチェリストであったヨーゼフ・リンケと共に、ヴァイオリニストで作曲家のレオポルト・ヤンサを中心とした新たな弦楽四重奏団を結成しました。これにより、ホルツはベートーヴェンらによって確立されたウィーンにおける弦楽四重奏の演奏伝統を、その後の世代へと引き継ぐ役割も果たしました。

カール・ホルツは、高名な演奏家としてだけでなく、ベートーヴェンの晩年を公私にわたって支え、その創作の現場に立ち会い、後世に貴重な証言を残した人物として、音楽史において重要な位置を占めています。

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