ガガーリン宇宙飛行士訓練センター

ガガーリン宇宙飛行士訓練センター（ロシア語名: Центр подготовки космонавтов имени Ю. А. Гагарина、略称: GCTC）は、ロシア連邦の首都モスクワ郊外に位置する「スターシティ」と呼ばれる特別なエリアに開設された、宇宙飛行士候補生や現役宇宙飛行士のための専門的な訓練施設です。

この施設は1960年1月11日に設立されました。そして、1969年には人類史上初の宇宙飛行を成功させた偉大な宇宙飛行士、ユーリイ・A・ガガーリン氏の功績を記念し、「ユーリ・A・ガガーリン宇宙飛行士訓練センター」と改称されました。日本では一般的に「ガガーリン宇宙飛行士訓練センター」の通称で広く知られています。

組織体制については、1995年にロシア空軍の試験・訓練部隊が統合されたことで、現在の体制が整えられました。かつてはロシア国防省の管轄下にありましたが、2009年4月からはロシア連邦宇宙局（ロスコスモス）の管理下に移管されています。ロシア国内には宇宙飛行士のための施設が三箇所存在しますが、GCTCはその中でも最大の規模を誇り、ロシアの全宇宙飛行士の半数以上がこのセンターを拠点として活動しています。

このセンターには、宇宙飛行士が宇宙空間で活動するために必要なあらゆるスキルと知識を習得できるよう、多種多様な先進的な訓練設備が備えられています。主要な設備としては、以下のようなものが挙げられます。

- 宇宙船の実物大模型とシミュレータ: 旧ソビエト連邦時代から現代に至るまでの主要な宇宙船、例えばソユーズ、ブラン、TKS、サリュート、ミール、そして国際宇宙ステーション（ISS）などの実物大模型（モックアップ）が、施設の二つの主要なホールに展示されています。これらの模型やソユーズ宇宙船の専用シミュレータを用いることで、宇宙飛行士は宇宙船の構造やシステム、操作手順を詳細に学び、地上でのミッション遂行能力を高めます。

- 無重力シミュレーションプール（ハイドロラブ）： 宇宙空間での船外活動（EVA）、いわゆる宇宙遊泳の訓練は、この巨大な水槽で行われます。水中での浮力を利用して無重力環境を模擬するこの施設は、1980年に、より大型で最大20トンの宇宙ステーションモジュールを設置できるHydro Laboratory（ハイドロラブ）に更新されました。プールは水深12メートル、直径23メートル、容積5,000立方メートルという広大な規模を誇り、複雑な船外活動手順のリハーサルに不可欠です。

- 無重力訓練用航空機: 一時的な無重力状態を作り出すための特殊な訓練機も運用されています。初期にはMig-15 UTIやTu-104が使用されましたが、後に機内容積が400立方メートルと広々としたIL-76 MDKに置き換えられました。これらの航空機は、GCTCからさほど遠くないチャカロフスキー空港を拠点としており、宇宙飛行士は本物の無重力環境下での機器操作や身体適応訓練を行います。

- 遠心加速器: ロケット打ち上げ時や大気圏再突入時に発生する極めて強い加速度（G）に耐えるための生理的な訓練は、遠心加速器（セントリフュージ）で行われます。施設には大小二つの遠心加速器があり、TsF-7は1973年3月から運用されており半径7メートルで最大20Gの負荷をかけられます。一方、1980年に導入されたTsF-18は半径18メートルを誇り、最大30Gまで対応可能な世界最大の遠心加速器です。これらの設備により、宇宙飛行士は極限状態における身体の反応を訓練します。

- 医療・試験施設: 宇宙空間におけるクルーの健康管理や、身体的・精神的な適性を評価するための高度な医療クリニックと試験施設が完備されています。

- プラネタリウム: 東ドイツ製のこのプラネタリウムは、夜空に約9,000個の星を投影することができ、宇宙飛行士が天体観測や航法に関する知識を深めるために利用されます。

- 記念施設: センター内には、ユーリイ・ガガーリン氏が最初に使っていたオフィスが保存されているほか、歴代の宇宙飛行士たちの功績を称える記念碑やギャラリーが設けられており、施設の歴史と精神を伝えています。

ガガーリン宇宙飛行士訓練センターは、これらの総合的な設備と専門的なプログラムを通じて、宇宙飛行士が地球軌道上はもちろん、将来的にはさらに遠い宇宙空間でのミッションを安全かつ確実に遂行できるよう、その能力を最大限に引き出すための世界でも類を見ない重要な教育・訓練機関です。

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