ガベス

チュニジア共和国南部に位置するガベスは、同名のガベス県の県都としての役割を担っています。アラビア語では قابس と記され、地中海沿岸にありながら、海辺にオアシスが広がるという世界でも珍しい地理的特徴を持つ都市です。古くから様々な勢力の支配を経ており、その歴史は複雑かつ多様です。現在では、国内でも有数の工業地帯としての顔を持つ一方で、魅力的な観光資源も擁しています。

ガベスの歴史は紀元前に遡ります。かつては北アフリカを拠点としたカルタゴの支配下にありましたが、紀元前2世紀にポエニ戦争でカルタゴがローマに敗れた後、ローマ帝国の版図に組み込まれました。この時代にはタカペ（Tacape）というローマ名で知られるようになります。7世紀には、イスラム勢力の拡大に伴い、この地もイスラム世界の支配下に入りました。これは「イスラムの解放」（アル・ファタハ・ル・イスラム）と呼ばれ、イスラムの拡大における重要な出来事の一つとされています。伝承によれば、イスラム教の預言者ムハンマドの側近であったシディ・アブー・ルーババ・ル・アンザリがガベスに着任したとされています。

近代に入ると、ガベスはヨーロッパ諸国の影響下に置かれます。1881年にはフランスの保護領となり、第二次世界大戦中の1940年には短期間ながらドイツ軍の占領下に置かれました。しかし、1943年には連合軍によってドイツ軍から奪還され、再びフランスの統治下に戻りました。この間の戦闘により、ガベスの市街地インフラは大きな損害を被りました。戦後、1945年から復興計画が開始され、町の再建が進められました。そして1956年、チュニジアがフランスから独立を達成したことで、ガベスも主権を回復しました。

経済面において、ガベスは特に1970年代以降に目覚ましい発展を遂げました。この時期からガベス湾沿いに臨海工業団地の整備が進められ、1977年に始まった国家の第五次四か年計画において、重工業の育成が国家プロジェクトとして推進されたことが、ガベスをチュニジア有数の工業都市へと押し上げました。現在では、国内最大級の工業拠点のひとつとなっており、主要な産業としてはセメント、化学工業、レンガ製造、石油精製などが挙げられます。特に化学産業は盛んであり、市内に位置するガベス大学の化学科で取得できる学士号は、アフリカ地域で高く評価されています。

しかし、急速な工業化は環境問題という深刻な課題も生み出しました。工場の集中に伴い、ガベス地域およびガベス湾における汚染が懸念されています。近年、チュニジア政府はこれに対応するため、新たな環境対策プログラムを立ち上げ、公害防止のための法的な枠組みを整備するなど、環境保護への取り組みを強化しています。交通網においては、ガベスから西へ、隣国アルジェリアのガルダイアまで舗装された道路が延びており、地域間の連携を支えています。

工業都市としての側面のほか、ガベスは観光地としての魅力も持ち合わせています。前述した海辺のオアシスは、そのユニークさから多くの関心を集めます。また、ジャラ地区には伝統的なスーク（市場）があり、地元の文化や活気を体験できます。地中海に面しているため、市街地南部からジェルバ島へと向かう沿岸部には、レマヤビーチをはじめとする美しい砂浜が点在しており、政府によってこれらの地域の観光開発計画も進められています。ガベスには、教育機関としてガベス大学が存在するほか、国際的な友好関係も築いており、オーストリアのリンツ市（1977年提携）やフランスのサン＝ブリユー市（1998年提携）とは姉妹都市の関係にあります。ガベスは、その歴史、経済、自然、文化が複雑に織りなす、チュニジアにおける重要な都市です。

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