ガマール・アブドゥル＝ナーセル (揚陸艦)

ガマール・アブドゥル＝ナーセル：クリミア危機が運命を変えた揚陸艦

エジプト海軍所属の揚陸艦「ガマール・アブドゥル＝ナーセル」は、数奇な運命をたどった艦艇として知られています。その艦歴は、国際情勢の激変が艦船の所有権や運用に大きな影響を与えることを如実に示しています。

ロシアへの売却からエジプトへの転売へ

この艦は、元々はロシア海軍向けに建造されたミストラル級揚陸艦「ウラジオストク」でした。フランスとロシアの共同事業として、フランスのアトランティーク造船所を中心に建造が進められ、2013年には進水、2014年には処女航海を達成しています。

しかし、2014年のクリミア危機とウクライナ内戦の勃発により、国際社会におけるロシアへの圧力が高まりました。これを受け、フランス政府は「ウラジオストク」を含むミストラル級揚陸艦2隻のロシアへの引き渡しを一時中止。その後、2015年には正式に引き渡し中止を決定し、ロシアに全額返還という形で取引は終了しました。

最大規模の西側諸国とロシア間の防衛事業として注目されていたこの取引は、地政学的リスクの現実を突きつけた出来事となりました。

エジプト海軍への編入と新たな役割

ロシアへの売却が白紙になった「ウラジオストク」でしたが、新たな道を歩むことになります。2015年、エジプトが同艦を購入することで合意。約9億5000万ユーロという巨額の費用を投じて、エジプト海軍の一員として迎え入れることになりました。

エジプト海軍では、艦名を「ガマール・アブドゥル＝ナーセル」と改名。1952年のエジプト革命を主導した同国の英雄、ガマール・アブドゥル＝ナーセル大統領の名を冠したことは、エジプトにとって大きな意味を持つ出来事だったと言えるでしょう。

2016年6月、フランスからエジプトへの引き渡しが行われ、アレクサンドリアへの配備に先立ち、エジプトとフランスの合同軍事演習にも参加。同年6月、正式にエジプト海軍に就役し、新たな任務に就きました。

ミストラル級揚陸艦：先進技術の結晶

「ガマール・アブドゥル＝ナーセル」が属するミストラル級揚陸艦は、ヘリコプター搭載能力や揚陸能力を備えた多用途の艦艇です。先進的な技術が搭載されており、高い作戦能力を有していることも特徴です。民生品を多く採用することでコスト削減にも成功しており、艦艇建造における技術革新の象徴と言えるでしょう。

結論

「ガマール・アブドゥル＝ナーセル」の艦歴は、国際情勢の変化が軍事技術や防衛装備調達に大きな影響を与えることを示す好例です。ロシアでの建造、売却先変更、エジプト海軍への編入という波乱万丈の歴史を経て、現在もエジプト海軍において重要な役割を果たしています。この艦の物語は、冷戦終結後も続く国際政治の複雑さと、その中で進む軍事技術の進化を改めて認識させてくれます。

この艦の運用状況や技術的詳細については、今後の情報公開に期待したいところです。

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