ガラスの世代

太田裕美によって1979年10月に発表されたシングルレコードが、「ガラスの世代」である。この作品は、その後の彼女の音楽キャリアにおいて、非常に重要な節目となる記念碑的な一枚として位置づけられている。

楽曲の特徴

本シングルの表題曲である「ガラスの世代」は、太田裕美が自身の名義でリリースするシングルのA面楽曲として、初めて自ら作曲を担当した楽曲であるという特筆すべき特徴を持っている。それまでの太田裕美のヒット曲や代表曲の多くは、筒美京平氏をはじめとする外部の著名な作曲家陣によって提供されてきた。しかし、「ガラスの世代」において太田自身がペンを執りメロディーを生み出したことは、彼女が単なる歌唱力に優れた歌手としてだけでなく、自身の音楽世界を創造するクリエイターとしての才能を本格的に開花させたことの明白な証であり、シンガーソングライターとしての道を深化させる上での大きな転換点となった出来事と言える。この自己作曲への挑戦は、彼女の音楽表現に新たな奥行きと多様性をもたらす契機となったことは間違いない。

収録曲

このシングルレコードには、以下の二つの楽曲が収められている。

A面: ガラスの世代 (3分37秒)
作詞: ちあき哲也
作曲: 太田裕美
編曲: 萩田光雄

B面: やさしい街 (3分35秒)
作詞: ちあき哲也
作曲: 太田裕美
編曲: 萩田光雄

A面曲「ガラスの世代」の作詞は、数々のアーティストに詞を提供している作詞家のちあき哲也が担当した。そして、作曲は本作で初めてシングルA面曲の作曲を手がけた太田裕美本人である。編曲は、太田裕美の多くの楽曲でアレンジを担当し、彼女の音楽世界を深く理解している編曲家の萩田光雄が務めた。この三者の顔合わせにより、詩的な言葉、歌手自身の内面から生まれたメロディー、そして洗練されたアレンジが見事に融合し、「ガラスの世代」独特の世界観が構築された。

B面に収録されている「やさしい街」も、A面曲と同様に作詞をちあき哲也、作曲を太田裕美、編曲を萩田光雄という、全く同じ制作布陣で制作されている。演奏時間も3分35秒と、A面曲に匹敵する尺を持っており、カップリング曲ながらもA面曲と同様の熱量が込められていることが伺える。A面、B面ともに太田裕美自身が作曲を手がけたという点でも、このシングルは彼女のキャリアにおける重要なマイルストーンとなっている。

音楽的背景と位置づけ

1979年という時代は、日本の音楽シーンにおいて、アイドル歌謡からニューミュージックへと多様化が進んでいた時期にあたる。「ガラスの世代」がリリースされた当時、歌手自身が作詞作曲を手がけるスタイルは既に存在していたが、太田裕美が自身の代表作を多数手がけてきた筒美京平氏など外部の作曲家から、自身が作曲を行うスタイルへとシフトしたことは、アーティストとしての自立性や表現の幅を広げたいという意欲の表れであったと考えられる。作詞のちあき哲也、編曲の萩田光雄という組み合わせは、太田裕美の清らかで透明感のある歌声と、やや文学的な歌詞、そして情感豊かなメロディーを最大限に引き出すための絶妙なチームであったと言えるだろう。特に萩田光雄によるアレンジは、当時のシティポップや洗練されたポップスサウンドに通じるものであり、楽曲の持つ叙情性や切なさを強調しつつも、聴きやすさも兼ね備えたサウンドとなっている。

後世への伝承と関連作品

シングルとして発表された「ガラスの世代」は、その後も太田裕美の重要なレパートリーとして、様々な形で後世に伝えられている。例えば、これまでに発売された彼女のベストアルバムやコンピレーションアルバムに数多く収録されていることが、その証左と言えるだろう。特に、『GOLDEN J-POP/THE BEST 太田裕美|GOLDEN J-POP_THE BEST 太田裕美』や『GOLDEN☆BEST 太田裕美コンプリート・シングル・コレクション』といった、彼女のキャリアを網羅するような企画盤に欠かすことなく収録されていることは、この楽曲がファンだけでなく、音楽評論家や編集者からも太田裕美の代表曲の一つとして認められていることを示している。これらのアルバムを通じて、1979年に生まれ、太田裕美自身が作曲を手がけたという特別な意味合いを持つ「ガラスの世代」は、時代を超えて多くの音楽リスナーに聴かれ続けている。この一曲が、太田裕美を単なる「歌唱力のあるアイドル」から「自身の言葉とメロディーで表現するアーティスト」へと認識を変化させる上で果たした役割は非常に大きいと言えるだろう。その後の太田裕美がシンガーソングライターとしての活動を本格化させていく上で、「ガラスの世代」の存在は揺るぎない礎となったのである。

もう一度検索