ガーデネスク

ガーデネスク：庭園芸術の探求

1832年、造園家ジョン・ラウドン（1783-1843）は、植栽デザインにおける新たな概念「ガーデネスク (Gardenesque)」を提唱しました。これは、単なる自然の模倣ではなく、芸術作品としての庭園を創造しようとする試みでした。ラウドンは、自然の風景と植栽デザインを明確に区別するために、ガーデネスクにおいてエキゾチックな植物の積極的な活用を主張しました。自然の成長を模倣するのではなく、意図的に人工的な美しさを追求することで、庭園を絵画のような芸術作品として認識させることを目指したのです。

ラウドンは、ガーデネスクを実現するための具体的な方法として、いくつかの手法を提案しました。一つは、周囲の植物を取り除き、個々の植物を際立たせることで、植物本来の美しさを最大限に表現することです。もう一つは、幾何学的な形状の植栽帯を用いて、植物の配置に秩序とデザイン性をもたらす方法です。これらの手法は、自然の風景とは異なる、明確な人工的な美しさを生み出すことを意図していました。

しかし、ラウドン自身、ガーデネスクの原則をどのように実践すべきかについては、様々な解釈を示していました。この曖昧さが、後のガーデネスクの多様な解釈につながることになります。

オックスフォード英語辞典(OED)は、ガーデネスクを「庭園の特徴を備えたもの、庭に似ているか、庭に属するもの」と定義しています。これは、ラウドンが意図した意味合いとはやや異なり、「庭のような」という現代的な理解に近い解釈です。

OEDは、19世紀におけるガーデネスクの様々な用例を挙げています。例えば、1838年のラウドン自身の記述では、ガーデネスクは「個々の木の美しさを際立たせる」植栽様式として説明されています。これは、幾何学的な配置やエキゾチックな植物の選定といった、ラウドンの初期の考え方を反映していると言えるでしょう。一方、1839年のレプトンの記述では、ガーデネスクは「木々や他の植物の美しさを個別に表示すること」を特徴とする様式として紹介されています。これは、植物の個性を強調する点で、ラウドンの考え方に沿った解釈です。さらに、1880年以降の用例では、公的庭園がガーデネスク様式で整備されている様子が記されています。これは、ガーデネスクが単なる私的な庭園にとどまらず、公共空間にも適用されたことを示しています。

これらの用例からわかるように、ガーデネスクは、ラウドンによって提唱された当初の概念から、時代や文脈に応じて様々な解釈がなされてきました。幾何学的な配置、エキゾチックな植物、個々の植物の強調など、ガーデネスクには様々な要素が含まれており、それらの要素の組み合わせによって、多様な庭園デザインが創造されてきました。

ガーデネスクは、単なる植栽様式にとどまらず、庭園を芸術作品として捉えるという新しい視点を提示した画期的な概念でした。その後の庭園デザインに大きな影響を与え、現代の庭園デザインにもその影響を見ることができます。 ラウドンが目指したのは、自然を模倣するのではなく、自然の素材を用いて創造的な芸術表現を行うことであり、その試みは今日のランドスケープデザインにも通じる重要な概念と言えるでしょう。

参考文献

OED オックスフォード英語辞典のコンパクト版
印刷物における園芸：職業、指導および改革 、Nickianne Moody著
* Turner、T - イギリスの庭園デザイン：1650年以来の歴史と様式

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