キッドナッパー

フランスで1998年に製作・公開された映画『キッドナッパー』（原題：Les Kidnappeurs）。この作品は、犯罪稼業から足を洗おうとする男が、個性的な仲間たちと共に巻き込まれる騒動を描いたクライムコメディです。物語の中心となるのは、南仏の刑務所から出所したばかりのアルマン（メルヴィル・プポー）。熟練の金庫破りとして知られる彼は、これまでの生活に区切りをつけ、真面目に生きることを決意していました。

しかし、そんな彼の前に現れたのは、恋人であるクレール（エロディ・ブシェーズ）でした。コンピューターの扱いを得意とするハッカーである彼女は、アルマンが服役中に彼の蓄えを使い込み、多くの男性と関係を持つなど奔放な生活を送っていました。クレールは堅気になろうとするアルマンに、新たな「仕事」を持ちかけます。それは、短気で衝動的な詐欺師ユリス（イサーク・シャリー）からの依頼でした。

ユリスが計画したのは、地元で恐れられるロシアンマフィア、メッシーナ兄弟（フレディとジョー）の指示によるもの。彼らは、取引で代金を踏み倒したリトアニアマフィアから2000万フランを取り返すため、強奪計画を実行しようとしていました。アルマンの腕を見込んだ彼らは、彼をチームに引き入れようとします。

チームはアルマン、クレール、ユリスの３人に加え、運転手としてもう一人必要でした。クレールが選んだのは、自身の弟であるゼロ（ロマン・デュリス）。彼はドラッグ中毒でスピード狂という問題のある人物でした。かつてゼロのせいで刑務所に入った過去を持つアルマンは猛反対しますが、結局この四人で組むことになります。

計画の実行日、初日は驚くほどあっさりと成功します。しかし、迎えた二日目、事態は思わぬ方向へと転がり始めます。チームは立て続けに失敗を重ねたあげく、手に入れたのは計画していた大金ではなく、価値の分からない小さな小像と、その場に居合わせたリトアニア人の一人でした。

依頼主であるメッシーナ兄弟は当然激怒し、前金を返せとユリスに詰め寄ります。絶体絶命と思われたその時、意外な事実が判明します。実は、メッシーナ兄弟はリトアニア人のフィンケル（パトリック・リザーナ）から、ある「リトバク王子」と呼ばれる人物を返してほしいと頼まれていたのです。メッシーナ兄弟は手に入れた小像こそが「リトバク王子」だと考え、それを受け取ると、人質となっていたリトアニア人を解放してしまいます。

ところが、フィンケルは解放されたその人質こそが「リトバク王子」であると主張し、小像には価値がないと激怒します。彼は自分の弟を人質に取り、メッシーナ兄弟に「リトバク王子」を返せと要求。一方、この新たな状況を知ったユリスは、一度解放してしまった人質を探しに出ます。

さらに事態は複雑化します。分け前に不満を感じていたゼロは、手に入れた金を奪って単独での逃走を図ります。彼の行動には、恋人であるニュアージュ（エレーヌ・フィリエール）の存在も影を落としており、彼女もまたゼロを操るように計画に関わってきます。

こうして、当初の計画とは全く異なる方向へ進んだ物語は、金、人質、そして謎の「リトバク王子」を巡る、それぞれの思惑が入り乱れる奇妙で予測不能な騒動へと発展していきます。アルマンは堅気の道を歩めるのか、そしてこの混乱はどのように収拾されるのか、登場人物たちの軽妙かつ危ういやり取りの中で物語は展開していきます。

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