キム・ニューマン

1959年7月31日にイギリスで生を受けたキム・ニューマンは、現代の幻想文学、ホラー、そして映画評論の世界で多角的な活躍を見せる文筆家です。彼は自身の名義であるキム・ニューマンとしてのみならず、ジャック・ヨーヴィルという別ペンネームでも数々の作品を発表しており、その活動は作家、映画批評家、ジャーナリストと多岐にわたります。ロンドンで生まれ、サマセットで少年時代を過ごした彼は、その後サセックス大学で学びました。

彼の文筆家としてのキャリアは、1985年にノンフィクションの分野からスタートしました。この年、ニール・ゲイマンとの共著による引用集『Ghastly Beyond Belief: The Science Fiction and Fantasy Book of Quotations』と、ホラー映画批評史『Nightmare Movies: A critical history of the horror film, 1968-88』の二冊を刊行し、批評家・ジャーナリストとしての一歩を踏み出しています。小説家としての本格的なデビューは、ジャック・ヨーヴィル名義で発表された1989年の作品「The Night Mayor」とされています。

ニューマンの最もよく知られた著作の一つに、「ドラキュラ・シリーズ」（Anno Draculaシリーズ）があります。このシリーズは、ブラム・ストーカーの古典『ドラキュラ』における結末を大胆に改変した架空歴史小説です。作中世界では、ヴァン・ヘルシング教授率いる一団がドラキュラ伯爵に打ち破られてしまい、代わりにドラキュラがヴィクトリア朝時代のイギリスを掌握するという衝撃的な設定が描かれます。吸血鬼が公然と社会に進出し、歴史的な出来事や人物が吸血鬼やその他の幻想的な存在と入り混じる、独特の世界観が読者を惹きつけます。シリーズは発表年によって「ドラキュラ紀元一八八八」「ドラキュラ紀元一九一八」「ドラキュラ紀元一九五九」など、異なる時代を舞台として展開しており、近年には「ジョニー・アルカード」を主人公とする物語も刊行されています。

また、彼はジャック・ヨーヴィル名義で、テーブルトークRPG「ウォーハンマーRPG」の世界観をベースにしたノベライズ作品を多数執筆しています。「ドラッケンフェルズ」「ベルベットビースト」といった作品はこの名義で発表されており、これらの作品群を通じて、彼はゲームの世界観を豊かに広げました。特筆すべき点として、キム・ニューマン名義の作品に登場する吸血鬼ジュヌヴィエーヴが、ジャック・ヨーヴィル名義の作品にも登場するなど、二つの名義間でキャラクターがクロスオーバーするというユニークな手法も用いています。これは、彼の創作活動がペンネームの枠を超えて繋がっていることを示唆しています。

ニューマンの作品は、ホラー、ファンタジー、SFといったジャンルを自在に行き来し、古典的な題材に新たな解釈を加えることを得意としています。シャーロック・ホームズの宿敵を主人公にした「モリアーティ秘録」なども手掛けており、パスティーシュや架空歴史といった手法を通じて、既存の物語世界に独自のひねりを加えています。また、邦訳された短篇の中には、クトゥルフ神話の世界観を取り入れたものも見られ、その創作範囲の広さがうかがえます。

以下に主要な著作の一部を示します。

キム・ニューマン名義

『ドラキュラ紀元一八八八』（Anno Dracula、完全版）
『ドラキュラ紀元一九一八鮮血の撃墜王』（The Bloody Red Baron (Anno Dracula 1918)、完全版）
『《ドラキュラ紀元一九五九》ドラキュラのチャチャチャ』（Judgement of Tears -Anno Dracula 1959、完全版）
『《ドラキュラ紀元》われはドラキュラ――ジョニー・アルカード』〈上・下〉（Johnny Alucard）
『モリアーティ秘録』（Professor Moriarty: The Hound of the D'Urbervilles）

ジャック・ヨーヴィル名義

「ドラッケンフェルズ」（Drachenfels）
「ベルベットビースト」（Beasts in Velvet）
「吸血鬼ジュヌヴィエーヴ」（Genevieve Undead）
「シルバーネイル」（Silver Nails）- 短篇集
ウォーハンマーRPGノベライズシリーズ：
「赤い渇き」（Red Thirst）
「灰色山脈にもう金はない」（No Gold in the Grey Mountains）
「もの知らぬ軍勢」（The Ignorant Armies）
「ウォーホーク」（Warhawk）

邦訳された短篇作品も多数存在し、日本の読者にも彼の多面的な創作世界が紹介されています。

キム・ニューマンは、過去の物語やジャンルの枠組みを遊び心と批評精神を持って再構築し、常に新しい読書体験を提供する作家です。彼の作品は、単なるエンターテイメントに留まらず、文化や歴史、そしてフィクションの可能性について深く考えさせる魅力に満ちています。

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