キャバレー (小説)

キャバレー

『キャバレー』は、栗本薫による著名なハードボイルド小説である。本作は1986年に映画化され、2000年にはミュージカルとしても上演された。物語は、若き天才サックス奏者の矢代俊一を中心に展開され、彼と中年のヤクザ、滝川との間に結ばれる奇妙な友情を描く感動的な成長譚となっている。

発表経歴

本作は1983年8月号の『野性時代』に初掲載され、その後、同年9月に角川書店から単行本として出版された。続いて、1984年には角川文庫版、2000年にはハルキ文庫版、そして2019年には新装版が登場した。表紙デザインには異なるアーティストが担当しており、そのビジュアルも話題を呼んだ。さらに、2000年に発表された続編『黄昏のローレライ キャバレー2』では、俊一と滝川が再会し、新たな物語が描かれた。

あらすじ

物語の主人公、俊一は中小企業の経営者の息子で、名門私立大学のジャズ・サークルに所属していた。しかし、彼はクラシック音楽にしか理解を示さない父親や、自慢ばかりの同級生に辟易し、本物のジャズを求めて家を出る決断をする。そこで彼は、場末のキャバレー「タヒチ」のバンドに参加し、ジャズに没頭する日々を送ることになる。

キャバレーの現実は厳しいものだったが、最初は新しい刺激に満ちていた。しかし、すぐに飽きてしまい、つまらない日々が続く中、ある日、暴力団・小桜組の代貸である滝川に出会う。彼から「レフト・アローン」という曲のリクエストを受けた俊一は、演奏後に滝川からこの曲の演奏が自分の思っていたものと異なると指摘され、激しく反論することになる。この出来事がきっかけで、滝川は俊一に対して敬意を抱くようになり、二人の関係は徐々に深まっていく。

滝川は音楽の素人であるが、俊一に対して鋭い感性を持っており、彼の演奏に対する評価やアドバイスが俊一の成長を促す要因となる。滝川やタヒチの仲間たちとの交流を通じて、俊一はジャズに込められた人々の愛や悲しみを感じ取り、音楽としての本質を追求することになる。しかし、彼の周囲では暴力団の対立などが影を落とし始め、俊一もその波に巻き込まれていく。これは後に滝川に対して苦渋の決断を強いる事態を引き起こす。

登場人物

• - 矢代俊一: 19歳のサックス奏者で、キャバレーでの音楽に身を投じながらも心の葛藤を抱えた若者。
• - 滝川: 小桜組の代貸であり、俊一の音楽に魅了されるが、その暴力団としての立場に苦しむ。
• - 金: キャバレー「タヒチ」のピアニスト、および他のメンバーと共にバンドの音楽を支える。
• - 英子: タヒチのNo.1ホステスで、俊一に恋心を抱く女性。

映画とミュージカル

『キャバレー』は、1986年に映画化された際に、ストーリーラインに変更が加えられながらも、原作のテーマを損なうことなく映像化された。映画はビジュアルスタイルにこだわり、セピア調の映像処理を施すことで独特の雰囲気を演出している。さらに、キャストの多くが短い出演で物語に色を添え、元々の原作の魅力を活かす工夫もなされている。

2000年には、栗本薫自身が脚本・演出を手掛けたミュージカル版も制作された。物語の設定こそ一部変更されたものの、根底にあるテーマは引き継がれている。

このように、ジャンルを超えた多様な表現を通じて、原作『キャバレー』は日本のエンターテインメント界において重要な位置を占めている。

もう一度検索