キヤノン キヤノネットシリーズ

キヤノネットシリーズ：キヤノンが生んだ大衆向け高性能カメラの歴史

キヤノネットシリーズは、キヤノンが1961年から発売を開始した、35mmフィルムを使用するコンパクトカメラのシリーズです。24×36mm判（ライカ判）のフィルムフォーマットを採用し、そのコンパクトなサイズと高性能から、一般ユーザーからプロまで幅広い層に支持されました。

キヤノネットシリーズの誕生と展開

1961年1月に登場した初代「キヤノネット」は、キヤノン初のコンパクトカメラであり、大口径レンズとセレン光電池によるシャッター速度優先AE機構を搭載していました。当時としては非常に高度な性能を持ちながら、18,800円という価格設定は、キヤノンの社員が月給で買えることを目標にした結果であり、そのコストパフォーマンスの高さから爆発的なヒットを記録しました。発売直後には、2週間分の在庫が数時間で売り切れるという社会現象も起こり、一方で、カメラ業界からはダンピングという批判も上がりました。このキヤノネットの登場は、カメラの低価格化・高機能化の波に乗り切れなかった多くのカメラメーカーが倒産・撤退を余儀なくされるきっかけともなりました。

その後、キヤノネットシリーズは、様々なモデルが展開されました。1963年には普及機としての「キヤノネットジュニア」が発売され、プログラムAEと目測ピント合わせ方式を採用しました。1964年には、「キヤノネットS」が登場し、巻き上げレバーをカメラ上部に移動、露出計をCdS素子に変更するなど改良が施されました。1965年には、フィルムの装填を容易にするQL（クイックローディング）機構を搭載した「キヤノネットQL17」が登場しました。また、「キヤノネットQL19」「キヤノネットQL25」など、レンズやシャッター機構を変更したバリエーションモデルも次々と発売されました。

1960年代後半には、プログラムAEの「キヤノネットQL19E」や、ゾーンフォーカス式の「キヤノネット28」が登場しました。1969年には、小型化された「ニューキヤノネットQL17」が発売され、その後も改良モデルが発売されました。1971年には「ニューキヤノネット28」や「ニューキヤノネットQL19」が、1972年には最終モデルとなる「キヤノネットG-III17」と「キヤノネットG-III19」が登場し、キヤノネットシリーズは幕を閉じました。

主なモデル

キヤノネット (1961年1月発売): キヤノン初のコンパクトカメラ。シャッター速度優先AEと距離計連動式。キヤノンレンズSE45mmF1.9搭載。
キヤノネットジュニア (1963年4月発売): プログラムAEと目測ピント合わせ方式の普及機。
キヤノネットS (1964年10月発売): シャッター速度優先AEと距離計連動式。キヤノンレンズ45mmF1.7搭載。
キヤノネットQL17 (1965年3月発売): QL機構搭載のシャッター速度優先AE。キヤノンレンズSE45mmF1.7搭載。
キヤノネットQL19 (1965年3月発売): キヤノンレンズSE45mmF1.9搭載。
キヤノネットQL25 (1965年10月発売): 低速シャッターとM接点を省略。キヤノンレンズSE45mmF2.5搭載。
キヤノネットQL19E (1965年11月発売): プログラムAE。セイコーシャSE電子プログラムシャッター搭載。
キヤノネット28 (1968年12月発売): プログラムAEとゾーンフォーカス式。キヤノンレンズ40mmF2.8搭載。
ニューキヤノネットQL17 (1969年7月発売): 小型化されたシャッター速度優先AE。キヤノンレンズ40mmF1.7搭載。
ニューキヤノネットQL17-L (1970年6月発売): バッテリーチェッカーを装備。
ニューキヤノネット28 (1971年3月発売): プログラムAEと距離計連動式。キヤノンレンズ40mmF2.8搭載。
ニューキヤノネットQL19 (1971年5月発売): キヤノンレンズ40mmF1.9搭載。
キヤノネットG-III17 (1972年3月発売): キヤノネット最終モデル。シャッター速度優先AE。キヤノンレンズ40mmF1.7搭載。
キヤノネットG-III19 (1972年3月発売): キヤノンレンズ40mmF1.9搭載。

キヤノネットシリーズが残したもの

キヤノネットシリーズは、その高い性能と手頃な価格により、多くの人々にカメラの楽しさを提供しました。特に初代キヤノネットは、高度な機能を備えながらも大衆が手が届く価格を実現したことで、その後のカメラ市場に大きな影響を与えました。その結果、キヤノネットシリーズは、カメラの低価格化と高機能化の波を加速させ、多くのカメラメーカーが淘汰される一因ともなりました。キヤノネットシリーズの成功は、カメラ技術の進歩と大衆化という二つの重要な流れを生み出し、現代のカメラ文化にも大きな影響を与え続けています。

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