キリストの捕縛 (カラヴァッジョ)

カラヴァッジョ『キリストの捕縛』：闇と光が生み出す劇的な瞬間

カラヴァッジョの『キリストの捕縛』（伊: Presa di Cristo nell'orto or Cattura di Cristo）は、バロック美術を代表する画家ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョが描いた、イエス・キリスト逮捕の場面を描いた作品です。1602年にローマの貴族チリアーコ・マッテイの依頼で制作され、現在はアイルランド国立美術館に所蔵されています。

絵画の構成と表現

この絵には、7人の人物が描かれています。左から順に、福音記者ヨハネ、イエス・キリスト、イスカリオテのユダ、3人の兵士（うち1人はほとんど見えない）、そしてランタンを持つ男です。人物たちは上半身が描かれ、暗い背景の中に配置されています。

ユダはイエスにキスをして、兵士にイエスを示しています。絵画の光源は明確ではありませんが、左上から光が差し込んでいるように見えます。また、右側の男が持つランタンが、もう一つの光源となっています。このランタンを持つ男は、カラヴァッジョの自画像であるとも、聖ペテロを表しているとも考えられています。左端では、ヨハネが逃げようとしており、その表情と動きは恐怖に満ちています。

この絵には、いくつかの注目すべき点があります。一つは、イエスとヨハネの頭部が視覚的に重なり合っているように見えることです。もう一つは、キリストを捕縛している兵士の磨かれた金属の鎧が、画面中央で強く輝いていることです。この鎧は、鏡のように内省を促す役割を果たしているとも解釈されています。

絵画に込められたメッセージ

カラヴァッジョは、この絵を通して、観る者に自らの罪を省みるよう促しているとも考えられています。それは、イエスを裏切ったユダの行為を、私たち自身の日常における罪と重ねて見せることで、観る者に内省を促すというものです。同時代の精神性を重んじる多くの作家や説教者たちと同様に、カラヴァッジョもまた、罪と向き合う人間の姿を描き出したのです。

イエス、ユダ、そして手を伸ばした兵士で構成される中央の集団は、アルブレヒト・デューラーの木版画『小受難シリーズ』との類似性も指摘されています。

消失と再発見

この絵は18世紀後半に所在不明となり、約200年間行方がわからなくなっていました。1990年になって、ダブリンのイエズス会の建物で再発見されました。再発見の発表は1993年11月に行われました。

この絵は、1930年代初頭からイエズス会の食堂に飾られていましたが、長い間、カラヴァッジョの追随者であるヘラルト・ファン・ホントホルストによる複製とみなされていました。しかし、その高い芸術性から、真筆である可能性が指摘され、詳細な調査の結果、カラヴァッジョの真作であることが証明されました。この発見には、ローマ大学の学生、フランチェスカ・カペレッティとラウラ・テスタの貢献も大きかったとされています。

絵画は現在、アイルランド国立美術館に無期限で貸与されています。

さまざまな見解と複製

この絵画には、少なくとも12点の複製が存在することが知られています。また、サンニーニ家が所有するバージョンは、一時はカラヴァッジョのオリジナルであると主張されましたが、その後の調査で異論も出ています。

文化的な影響

この絵画は、多くの芸術家や作品に影響を与えています。映画『私が愛したギャングスター』では、この絵画の発見に言及され、映画『パッション』では、カラヴァッジョの作風を模倣していると監督が語っています。また、この絵画をテーマにした音楽作品や、テレビ番組なども制作されています。

まとめ

カラヴァッジョの『キリストの捕縛』は、そのドラマチックな構図、光と闇のコントラスト、そして登場人物たちの心理描写によって、観る者に強い印象を与える作品です。再発見されたこの傑作は、バロック美術の歴史において、重要な位置を占めています。

参考文献

Benedetti, Sergio (1993). Caravaggio, the Master Revealed. National Gallery of Ireland.
Harr, Jonathan (2005). The Lost Painting: The Quest for a Caravaggio Masterpiece. Random House.
Mormando Franco, ed (1999). Saints and Sinners: Caravaggio and the Baroque Image. McMullen Museum of Art.
Benedetti, Sergio (November 1993). “Caravaggio's 'Taking of Christ', a Masterpiece Rediscovered”. The Burlington Magazine 135 (1088): 731–741.

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