キルケニー

キルケニー (Kilkenny)

アイルランド南東部に位置するキルケニーは、同名のキルケニー県の県都であり、人口約2万1千人（近郊含む）を擁する都市です。その名はアイルランド語の「Cill Chainnigh（キル・ハンニ）」に由来し、「聖カニスの教会」を意味します。豊かな歴史的遺産と活気ある文化、特にナイトライフで知られています。

市街地はノア川の河岸を中心に発展しており、内陸部にありながらも、海からの潮汐の影響を一切受けないというアイルランド国内で唯一の地理的特徴を持っています。また、行政システムにおいても独特で、アイルランドの主要都市の中で唯一、自治都市（County borough）の地位を持たず、バラー議会（borough council）によって運営されています。教育機関に関しては、アイルランド国立大学メイヌース校の分校であるキルケニー・カレッジは存在するものの、独自の地域技術カレッジや総合大学を持たない数少ない都市の一つです。歴史的には、1366年にイングランドによる支配を強化するための重要な法令である「キルケニー法」が制定された場所としても知られています。

古くから「大理石の都市」として称賛されてきたキルケニーは、多くの印象的な中世建築物で彩られています。この異名は、市内の建物の装飾や構造に多用されている特徴的な黒い石材に由来します。この石材は、市郊外の「黒い石切り場」で産出された炭素を多く含む黒い石灰岩であり、厳密には大理石とは異なりますが、その独特な質感と色合いがキルケニーの景観を形成する上で重要な役割を果たしてきました。この石材の採掘は17世紀に始まり、アイルランド国内はもとより、遠くヨーロッパ各地にも輸出されましたが、1970年代にその歴史に幕を下ろしました。キルケニーの主要なランドマークとしては、市のシンボルである壮麗なキルケニー城と、美しいゴシック様式の聖カニス大聖堂が挙げられます。また、パーラメント・ストリートに建つドミニコ会派のブラック・アビー（黒い修道院）は、1225年に創建された歴史ある建造物で、中世の修道生活を今に伝えています。

産業面では、ビール醸造がキルケニーの歴史と深く結びついています。18世紀初頭にコール・アンド・スミスウィックによって設立されたセント・フランシス・アビー醸造所は、長きにわたりこの町のビール生産の中心を担ってきました。この醸造所は1960年代以降、ギネス・グループの傘下に入り、現在はディアジオ・ワールド・サプライ社の一部として運営されています。かつて看板商品であったスミスウィック・エールは、現在では主にアイルランド国内のパブ向けに樽詰で少量のみ生産されています。一方、国外市場では、スミスウィックに風味や特徴が似た「キルケニー」という名称のビールが輸出され、広く知られています。現在の醸造所の生産量の約8割を占めるのは、ライセンスを受けて生産されているバドワイザーです。さらに、キルケニーには世界有数の乳製品・栄養食品会社であるグランビア社が本社を構え、主要な工場の一つを操業しています。グランビア社はアイルランド、イギリス、アメリカなど国際的に事業を展開し、約4000人の従業員を雇用しており、キルケニー経済において重要な存在となっています。

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