キルステン・フラグスタート

キルステン・フラグスタート：ワーグナーの楽劇を彩った伝説のソプラノ歌手

キルステン・フラグスタート（Kirsten Malfrid Flagstad、1895年7月12日 - 1962年12月7日）は、20世紀を代表するノルウェー出身のオペラ歌手であり、特にワーグナーの楽劇における卓越した歌唱力で知られています。彼女は、そのドラマティックな声質と表現力豊かな演技で、世界中のオペラファンを魅了し、「最高のワーグナー・ソプラノ」と称えられました。現在、100ノルウェー・クローネ紙幣に彼女の肖像が使用されていることからも、その国民的な人気と功績がうかがえます。

初期のキャリアと国際的な躍進

フラグスタートは、ノルウェーのハーマルで生まれ、18歳でオスロ国立劇場にてオペラ歌手としてデビューしました。初期は主に北欧地域で活動していましたが、1933年にバイロイト音楽祭に出演したことがきっかけとなり、国際的な注目を集めるようになりました。しかし、当時のバイロイトはアドルフ・ヒトラーの影響力が強く、フラグスタートは必ずしも重用されたとは言えませんでした。

1935年には、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場にデビューし、ワーグナー歌手としての地位を確立しました。彼女は、圧倒的な歌唱力と舞台での存在感で、瞬く間に観客を魅了し、メトロポリタン歌劇場の看板歌手の一人となりました。1941年にノルウェーへ帰国するまで、ワーグナー作品を中心に数多くの舞台に出演し、その名を世界に轟かせました。

戦時下の帰国と活動休止

フラグスタートがノルウェーに帰国した背景には、彼女の夫がナチス・ドイツに協力していたという事情がありました。彼女は夫を説得し、協力を止めさせるために帰国を決意したとされています。1947年までの間、フラグスタートはほとんど演奏活動を行いませんでした。この期間は、彼女にとって苦難の時代であり、その後の活動に大きな影響を与えました。

戦後の復帰と晩年

第二次世界大戦後、フラグスタートは演奏活動を再開し、再び国際的な舞台で活躍しました。1950年には、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮の下、リヒャルト・シュトラウスの『4つの最後の歌』を初演し、その美しい歌声で聴衆を感動させました。1953年には、パーセルの『ディドーとエネアス』に出演したのを最後に舞台から引退しましたが、その後もリサイタルや録音を通じて活動を続けました。

デッカ・レコードで行われたゲオルク・ショルティ指揮『ニーベルングの指環』のスタジオ録音では、主要な役を演じ、その歌声は現在でも高く評価されています。1962年、フラグスタートはオスロで亡くなりましたが、彼女の歌声はレコードやCDを通じて、今もなお世界中の音楽ファンに愛され続けています。

主要な出演オペラ

『ワルキューレ』：ジークリンデ、ブリュンヒルデ
『トリスタンとイゾルデ』：イゾルデ
『神々の黄昏』：ブリュンヒルデ
『タンホイザー』：エリーザベト
『ローエングリン』：エルザ
『パルジファル』：クンドリ
『フィデリオ』：レオノーレ
『ジークフリート』：ブリュンヒルデ
『さまよえるオランダ人』：ゼンタ

ディスコグラフィ（オペラ全曲）

『ディドとエネアス』（1952年、HMV＝EMI）
『トリスタンとイゾルデ』（1952年、HMV＝EMI）
『アルチェステ』（1956年、デッカ）
* 『ラインの黄金』（1958年、デッカ）

キルステン・フラグスタートは、その圧倒的な歌唱力と舞台での存在感で、20世紀のオペラ界に輝かしい足跡を残しました。彼女の歌声は、時代を超えて、今もなお多くの人々に感動を与え続けています。

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