キングの報酬

『キングの報酬』（原題：Power）は、1986年に公開されたシドニー・ルメット監督によるアメリカ映画です。リチャード・ギア、ジーン・ハックマン、デンゼル・ワシントンら豪華俳優陣が出演し、政治の世界における権力闘争と、それを取り巻く人間の葛藤をスリリングに描いています。

物語の中心人物は、選挙コンサルタントとして成功を収めているピート・セントジョン（リチャード・ギア）です。彼は、メディア戦略に長け、どんなに劣勢な候補者でも当選に導く手腕を持っています。高額な報酬を得て華やかな生活を送る一方、彼の仕事の裏側には、倫理的な問題や、人間関係の複雑さが潜んでいます。

ある日、セントジョンはオハイオ州上院議員の引退に伴う補欠選挙のコンサルタントとして、実業家のジェローム・ケード（J・T・ウォルシュ）から依頼を受けます。しかし、ケードの広報担当であるアーノルド・バイリングス（デンゼル・ワシントン）は、セントジョンを監視し、様々な妨害工作を行います。電話の盗聴やプライベートジェットの領収書改ざんなど、執拗な嫌がらせは、セントジョンの心に影を落とします。

セントジョンは、かつての妻であるエレン（ジュリー・クリスティ）や、かつての同僚であるヴィルフレッド（ジーン・ハックマン）との再会を通して、自身の成功の裏に隠された犠牲や、失われたものに向き合うことになります。ヴィルフレッドはアルコール依存に苦しみ、かつての輝きを失っていました。エレンは、政治の世界の醜い側面を目の当たりにし、理想と現実のギャップに苦悩する様子が描かれています。

一方、ケードの野望は、バイリングスの策略と深く結びついています。バイリングスは、上院議員のサム・ハッシングス（E・G・マーシャル）を借金地獄に陥れ、引退に追い込むことで、ケードの当選を確実なものにしようとしていました。

補欠選挙には、大学の教授であるフィリップ・アーロンズ（マット・サリンジャー）も立候補します。彼は、政治初心者ながら、これまでの政治のあり方を変えようと志を抱き、ヴィルフレッドをコンサルタントとして迎え入れます。

物語は、セントジョンが自身の行動の倫理的な問題点に気づき、ケードとの契約を解消し、アーロンズ教授を支援する方向へ転換していく様子を描きます。彼は、メディア戦略に頼るのではなく、市民に真摯に向き合うことを選び、自身の自然な姿を見せることで、新しい政治への道を模索していきます。

『キングの報酬』は、政治の世界の表と裏、権力と陰謀、そして人間の葛藤を描いた、重厚感のある政治サスペンスです。リチャード・ギア、ジーン・ハックマン、デンゼル・ワシントンら実力派俳優の素晴らしい演技、そしてシドニー・ルメット監督の巧みな演出により、観客を最後まで引き込む力強い作品となっています。また、この作品は、デンゼル・ワシントンの演技が高く評価され、1987年のNAACPイメージ賞優秀助演男優賞を受賞した一方、ベアトリス・ストレイトはゴールデンラズベリー賞最低助演女優賞にノミネートされるなど、賛否両論を巻き起こしました。 この映画は、政治家やその周辺の人間たちの複雑な関係性、そして政治の世界における道徳的なジレンマを浮き彫りにし、観客に深い考えを促す作品と言えるでしょう。

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