キーウの幽霊

キーウの幽霊とは

「キーウの幽霊」（Ghost of Kyiv）は、2022年 2月24日に始まったロシア軍によるキーウ攻勢の際、ウクライナ空軍のMiG-29戦闘機パイロットとして伝えられた伝説的な存在です。侵攻開始直後、このパイロットはわずか30時間でロシア軍機6機を撃墜したとされ、その活躍はソーシャルメディアを通じて瞬く間に広まりました。しかし、この物語は戦時下のプロパガンダとして利用された側面があり、後にウクライナ空軍自身も、単独のパイロットではなく、キーウを防衛した第40戦術航空旅団の集合的なイメージであると認めています。

都市伝説の誕生

ロシア軍の侵攻が始まると、SNS上では一人のウクライナ空軍パイロットが複数のロシア軍機を撃墜したという情報が拡散されました。その内容によると、侵攻開始から30時間以内に、Su-35戦闘機2機、Su-25攻撃機2機、そしてSu-27戦闘機とMiG-29戦闘機をそれぞれ1機ずつ撃墜したとされています。ウクライナ国防省は、この「キーウの幽霊」はロシア軍侵攻後に軍へ復帰した予備役パイロットの一人である可能性を示唆しました。ペトロ・ポロシェンコ前大統領も、パイロットの写真をTwitterに投稿し、その人物がキーウの幽霊であると主張しました。

国防省がSNSに投稿した動画は500万回以上再生され、欧州連合のウクライナ大使など、多くの関係者が肯定的な反応を示しました。しかし、この熱狂的な盛り上がりの中、動画がゲーム画面を流用したフェイクであるという指摘がなされました。事実、都市伝説検証サイトやロイター通信は、その動画がゲーム動画と一致すること、また、ポロシェンコ氏が投稿した写真が過去にウクライナ国防省が公開したものであることを明らかにしました。この指摘により、キーウの幽霊を巡る熱狂は、徐々に冷めていきました。

フェイクとの指摘

「キーウの幽霊」の映像とされるものが、実はゲーム映像だったという事実は、この伝説が捏造されたものであるという疑惑を呼びました。都市伝説検証サイトSnopesやロイター通信は、動画がYouTubeに投稿されたゲーム動画と一致することを突き止め、動画投稿者自身も偽物であることを認めました。また、ポロシェンコ前大統領が投稿した写真は、2019年にウクライナ国防省が投稿したものと同一であることが判明しました。これらの事実から、キーウの幽霊の話は、当初から多くの矛盾を抱えた作り話であったことが明らかになりました。

西側諸国の受け入れ

キーウの幽霊の物語が、西側諸国のソーシャルメディアで瞬く間に受け入れられた背景には、ビデオゲームのヒーローのような伝説を求める心理がありました。ウクライナの抵抗と防空戦闘の象徴として、「キーウの幽霊」の存在が人々の願望と合致したのです。また、ウクライナ空軍の主力戦闘機であるMiG-29は、機体の塗装が共通であるため、機体だけでは誰が搭乗しているのか識別できないことも、この伝説が広まった一因と考えられます。

都市伝説の否定と新たな事実

2022年 4月29日、イギリスのタイムズ紙が「情報筋」に基づき、40機以上のロシア軍機を撃墜したとされるキーウの幽霊、ステファン・タラバルカ少佐が作戦中に戦死したと報じました。この報道により、キーウの幽霊が実在の人物であったかのようなニュースが広まりました。しかし、翌日にはウクライナ空軍がタラバルカ少佐の戦死は事実だが、撃墜数は誤報であると発表しました。さらに、キーウの幽霊が架空の存在であり、ロシア軍からキーウを守った「戦術航空旅団の優秀なパイロットたちの集合的な精神の現れ」であることを認めました。2023年8月25日には、ジトーミル州上空で航空機事故が発生し、アンドリー・ピルシチコウ大尉が死亡しました。報道を通じて、彼が「Juice」というTACネームを持ち、ウクライナ中部や北部を防衛した「キーウの幽霊と呼ばれる部隊」の一員であったことが明らかになりました。

作品・製品

キーウの幽霊を題材にした作品や製品も登場しています。

キーウの幽霊（松田重工、2022年）: 日本の漫画家による同人漫画で、ウクライナ語と英語に翻訳され、ウクライナ、ポーランド、ドイツで出版されました。
MiG-29 ウクライナ空軍 “キーウの幽霊”（ICM、2022年）: ウクライナの模型メーカーが「キーウの幽霊の乗機」を再現したプラモデルで、売上の一部がウクライナ軍に寄付されます。

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