クアッド・ティルトローター

クアッド・ティルトローター：野心的な重輸送機の挑戦

ベル社とボーイング社が共同で開発を目指したクアッド・ティルトローター（QTR）は、アメリカ陸軍の統合重輸送計画（JHL）において、C-130ハーキュリーズに匹敵する輸送能力と、V-22オスプレイを彷彿とさせる垂直離着陸能力を両立させることを目指した画期的な航空機でした。その開発には、両社の長年のヘリコプター・ティルトローター技術と、膨大な研究開発費が投入されました。

開発の歩み：構想から風洞実験まで

QTRの開発は、ベル社による初期構想（D-322型機）から始まりました。その後、ベル・ボーイングチームは、V-22オスプレイと多くの共通部品を持つ、C-130級の大型ティルトローター計画を発表。当初は10万ポンドを超える最大離陸重量を目指していましたが、後に機体サイズを縮小、V-22との共通化を拡大し、ペイロード18,000〜20,000ポンドのV-44という計画へと変更されました。

2000年代初頭には、国防総省の開発計画選定に漏れてしまうものの、メリーランド大学カレッジパーク校での空気力学研究や、NASAとの協力による風洞実験が継続されました。特に2006年には、NASAラングレー研究所の風洞施設で5分の1スケール模型を用いた試験を実施。前方ローターと後方ローターの空力相互作用、翼の空力弾性安定性などを検証し、貴重なデータを取得しました。この実験では、3枚ブレードローターが用いられましたが、4枚ブレード化の可能性も検討されていました。

JHL計画への参入と挫折

2005年には、アメリカ陸軍との間でJHL計画への参加に向けた契約が締結され、本格的な概念設計と分析研究が開始されました。ベル社とボーイング社は、それぞれ翼・エンジン・ローター、胴体・内部システムを担当、V-22開発時の役割分担を踏襲した協力体制を築いていました。JHL計画では、複数の設計案が競合しており、QTRはその中の1つでした。

2007年には、QTRがJHL計画の次期機として選定されました。しかし、計画の進展とともに、有人戦闘車両の重量増加に伴う、より大型の航空機への需要が明らかになりました。このため、ベル・ボーイングチームは、設計の見直しを迫られ、最終的にJHL計画は、他の設計案と共に、統合将来戦域輸送機（JFTL）計画へと発展・統合することになりました。

設計：巨大なタンデム翼機

QTRの設計は、V-22をはるかに大型化した、巨大なタンデム翼機を想定していました。各翼端にエンジンと50フィートのローターを配置し、C-130級の大型貨物室を備えることで、多数の兵員輸送や、大量の貨物輸送能力を実現しようとしていました。さらに、水上機型など、様々な派生型が構想されていました。中でも「ビッグ・ボーイ」と呼ばれる派生型は、さらに大型のローターと貨物室を持ち、より大きな輸送能力とストライカー戦闘車両の輸送能力を目指していました。

結論：未来への技術的挑戦

QTR計画は、最終的にはJHL/JFTL計画において他の候補に敗れ、実機開発には至りませんでした。しかしながら、この計画で得られた技術的知見や実験データは、将来のティルトローター開発に大きく貢献したことは間違いありません。QTR計画は、ヘリコプターと固定翼機の利点を融合した、野心的な輸送機の開発に挑戦した、重要な試みでした。その挑戦は、今後のティルトローター技術発展に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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