クイックリターンミラー

クイックリターンミラー：一眼レフカメラの進化を支えた技術

クイックリターンミラーとは、一眼レフカメラに搭載された重要な機能の一つで、撮影時にミラーを自動で瞬時に上げ下げする機構を指します。この技術は、撮影時のファインダー像消失（ブラックアウト）時間を最小限に抑えるために不可欠であり、現在の一眼レフカメラには必須の装備となっています。英語では「インスタントリターンミラー（instant return mirror）」と呼ばれます。

クイックリターンミラー誕生以前の課題

一眼レフカメラは、レンズを通った光をミラーで反射させ、ファインダーで像を確認する仕組みを持っています。しかし、撮影時にはミラーを光路から退避させる必要があるため、その間ファインダー像が消失する「ブラックアウト」が発生します。初期の一眼レフカメラでは、このブラックアウト時間が長く、撮影の快適性や操作性に大きな課題がありました。

初期の一眼レフカメラでは、ミラーの上げ下げは手動で行う必要がありました。具体的には、以下のような方式が採用されていました。

手動操作: ミラーを上げる操作と下げる操作を別々に行う
シャッター連動: シャッターと連動してミラーを上げるが、シャッターチャージによってミラーが戻る
* ボタン操作: シャッターボタンを押し込むことでミラーが上がり、ボタンを離すとミラーが戻る

これらの方式では、ブラックアウト時間が長くなるだけでなく、シャッターボタンを押し込む際の振動で手ブレが起きやすいため、正確なフレーミングやピント合わせを必要とする撮影には不向きでした。そのため、一眼レフカメラは超望遠撮影や接写、科学用途など、特定の分野での使用に限られ、カメラの主流はレンジファインダーカメラや二眼レフカメラでした。

クイックリターンミラーの実用化

クイックリターンミラーは、シャッターの開閉動作に連動してミラーを自動で上げ下げする画期的な技術です。シャッターが開いている間だけミラーを上げ、シャッターの後幕が通過し終わると同時にミラーを戻すことで、ブラックアウト時間を大幅に短縮することが可能になりました。

世界で初めてクイックリターンミラーを搭載したカメラは、1948年にハンガリーのガンマ社が発売した「デュフレックス」です。しかし、生産台数は数百台にとどまり、本格的な普及には至りませんでした。その後、1954年に旭光学工業（現リコーイメージング）が発売した「アサヒフレックスIIb型」によってクイックリターンミラーは広く普及し、現在の一眼レフカメラには欠かせない機能となりました。

ハーフミラーによるブラックアウト対策

特殊な一眼レフカメラでは、ハーフミラーを使ってブラックアウトを解消する試みもありました。ハーフミラーは、光を一部反射させ、残りを透過させることで、常にファインダーと撮像素子の両方に光を分配します。しかし、この方式ではファインダー像が暗くなるというデメリットがあり、外部露出計を使用する際にはシャッター速度が遅くなったり、露出補正が必要になったりするなど、実用上の課題がありました。

クイックリターンミラーがもたらした変革

クイックリターンミラーの登場は、一眼レフカメラを一般に普及させる大きな転換点となりました。ブラックアウト時間の短縮により、撮影者は連続して快適に撮影できるようになり、一眼レフカメラはプロだけでなく、一般のカメラ愛好家にとっても使いやすいカメラとして広く受け入れられるようになりました。

現在では、デジタル一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラなど、様々なカメラにクイックリターンミラーの技術が応用されています。技術は進化し続けていますが、クイックリターンミラーが一眼レフカメラの発展に果たした役割は非常に大きいと言えるでしょう。

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