クォーク時代

クォーク時代 (Quark epoch)

クォーク時代とは、私たちの宇宙が誕生した直後の初期進化史において、非常に重要な位置を占める一時期を指します。この時代は、ビッグバンからおよそ10⁻¹²秒後という極めて短い時間から始まり、約10⁻⁶秒後まで続いたと推定されています。

この時期の特徴は、宇宙を支配する基本的な相互作用、すなわち重力、電磁力、そして原子核の内部に関わる強い相互作用と弱い相互作用が、現在私たちが観測している形へと既に分かれていた点にあります。その直前まで続いていた「電弱時代」において、電磁力と弱い相互作用は一つの力として振る舞っていましたが、クォーク時代が始まる頃にはこれらが分離し、今日知られる四つの基本力が確立されたのです。

しかし、この時代の宇宙は、現代の宇宙とは大きく異なる様相を呈していました。宇宙全体の温度は想像を絶するほど高く、空間は非常に密度の高いエネルギーと物質で満たされていました。特に重要なのは、宇宙が「クォークグルーオンプラズマ」と呼ばれる特殊な状態にあったことです。通常、物質を構成する最小単位であるクォークや、クォークを互いに結びつける糊のような役割を果たすグルーオンは、陽子や中性子といった「ハドロン」（バリオンやメソンの総称）と呼ばれる粒子の中に閉じ込められています。しかし、クォーク時代には宇宙があまりにも高温高密度であったため、クォークやグルーオンはハドロンの中に閉じ込められることなく、自由な状態で飛び回るプラズマ状態を形成していたのです。

このプラズマ状態では、粒子同士の衝突が非常に頻繁かつ高エネルギーで発生していました。そのエネルギーは、クォークが互いに引き合い、結合して安定したハドロン（例えば陽子や中性子）を形成するには高すぎるものでした。クォークは一時的にペアやトリプレットを形成しようとしても、すぐに激しい衝突によって引き裂かれ、自由な状態に戻ってしまったのです。まるで、いくら手を繋ごうとしても、周りからの猛烈な勢いで瞬時に引き離されてしまうような状況でした。

クォーク時代は、宇宙がさらに膨張し、冷却が進むにつれて終わりを迎えます。ビッグバンからおよそ10⁻⁶秒が経過する頃、宇宙の平均的なエネルギー密度や温度が、クォークをハドロンとして閉じ込めるのに必要な結合エネルギーを下回るようになりました。粒子間の衝突のエネルギーが十分に低下したことで、クォークは強い相互作用の力によって互いに結合し、陽子や中性子といったハドロンを形成し始めました。

クォーク時代が終了し、クォークがハドロンとして物質の基本的な構成要素を形成し始めた段階は、「ハドロン時代」として知られています。このハドロン時代への移行は、初期宇宙が現在の物質に満たされた姿へと進化していく上で、極めて重要なステップとなりました。クォーク時代は、現代の宇宙を形作る素粒子たちが、まだ自由な「スープ」の中にあった、熱くエキゾチックな過去の一時期なのです。

出典は、Allday, Jonathan (2002) "Quarks, Leptons and the Big Bang. Second Edition." および Ithaca College のPhysics 175の資料に基づいています。

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