クダール人

クダール人（Кударцы, Kudar）

クダール人は、イラン語派に属する東イラン語群の言語を話すオセット人を構成する主要な民族集団の一つであり、その一派に数えられます。彼らの名称は、主な居住地の一つであるクダル渓谷に由来すると考えられています。

居住地域

クダール人の居住地域は、主に二つの地域に分かれています。

第一に、ロシア連邦に属する北カフカース地方、具体的には北オセチア・アラン共和国の西部地域に相当数のクダール人が居住しています。この地域は、雄大なカフカース山脈の北麓に位置し、肥沃な渓谷と高原が広がっています。

第二に、ジョージア国内に位置する南オセチア自治州にも多くのクダール人が生活しています。特に、この自治州の中央部から南東部にかけて広がる山岳地帯にあるクダル渓谷（オセット語でKudar k’om）は、彼らの伝統的な故郷として知られています。南オセチアは、カフカース山脈の中央部に位置し、歴史的に複雑な政治的状況を抱える地域です。

これらの地域に分散して居住しているクダール人は、それぞれの環境に適応しながら独自の文化やアイデンティティを保持しています。

分類と言語

オセット人は、言語的・地理的に大きく東部のイロン人（Ирӕттӕ）と西部のディゴル人（Дигорӕттӕ）に分けられるのが一般的です。クダール人は、広義にはオセット人全体の一部として捉えられますが、言語的な特徴や歴史的な背景から、狭義にはイロン人の系統に属する一派として位置づけられることが多いです。

彼らが日常的に使用する言語は、オセット語のクダール方言（къуыдайраг диалект）です。オセット語自体は、インド・ヨーロッパ語族イラン語派の中でも、かつてユーラシア大陸の広範囲に分布したスキタイ・サルマート・アランといった古代イラン系遊牧民の言語の子孫とされています。

現代オセット語には主に東部で話されるイロン方言と西部で話されるディゴル方言がありますが、クダール方言はイロン方言に近い特徴を持ちつつも、独自の音韻や語彙を持っています。

ヤース方言との関連

クダール方言の最も特筆すべき言語学的特徴の一つは、遠く中央ヨーロッパ、現在のハンガリーのヤース地方に居住していたヤース人（ヤースザーク、Jászok）がかつて話していたヤース方言との顕著な言語的な近縁性です。

ヤース人は、13世紀頃に東方から現在のハンガリー平原に移住してきた集団で、オセット人と同じく古代アラン人の末裔と考えられています。彼らの言語であるヤース方言は、15世紀頃にはハンガリー語に置き換わって消滅してしまいましたが、当時の記録（特に15世紀初頭に作成された短い語彙集）として残された断片的な資料が存在します。

この限られたヤース方言の資料を分析した言語学者たちは、驚くべきことに、カフカース地方のオセット語、特にクダール方言の語彙や形態論、音韻体系との間に高い類似性があることを発見しました。例えば、基本的な単語や文法的な接辞などに共通点が見られます。この言語的なつながりは、ヤース人とオセット人が共有する古代アラン人という歴史的なルーツを強く示唆しており、民族移動の歴史や言語の分岐・変化を研究する上で非常に重要な証拠となっています。

このように、クダール人はカフカース地方に深く根差したオセット人の一派でありながら、その言語を通して、数千キロメートル離れたヨーロッパの歴史とも繋がっている、独特の背景を持つ民族集団と言えるでしょう。彼らの存在は、オセット人の多様性と、古代イラン系遊牧民アラン人の歴史的な広がりを示しています。

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