クチバテングコウモリ

クチバテングコウモリ（Murina tenebrosa）は、ヒナコウモリ科テングコウモリ属に分類される、非常に稀なコウモリの一種です。

分布

現在のところ、クチバテングコウモリの生息が確認されているのは、日本の対馬のみです。最初に発見されたのは上県町（現:対馬市）佐護で、この場所が模式産地となっています。

形態

体長は約5センチメートル、尾長は約3.5センチメートルで、体全体を覆う毛は暗褐色をしています。和名の由来となった「朽葉色」とは、枯葉のような色合いを指しており、このコウモリの体色を的確に表現しています。頭骨の長さは約1.7センチメートル、前腕の長さは約3.4センチメートルです。後肢と尾の間の皮膜（腿間膜、尾膜）には体毛がほとんどなく、ほぼ裸出しているのが特徴です。

分類

クチバテングコウモリの模式標本となったのは、1962年に今泉吉典、小原巌両名によって採集されたメスの個体です。この個体は採集後、1963年まで飼育されていました。しかし、対馬でこの個体が採集された以外には、確実な採集例がありません。ただし、1919年に屋久島で採集されたコウモリが、本種である可能性も指摘されています。もしそうであれば、クチバテングコウモリの分布域は対馬だけでなく、より広範囲に及ぶことになります。

生態

クチバテングコウモリの生態については、ほとんど何もわかっていません。食性、繁殖、行動パターンなど、基本的な情報が不足しています。これは、本種の生息数が極めて少ないことと、発見が困難であることが理由として挙げられます。今後の調査によって、少しでも多くの情報が得られることが期待されます。

保全状況

環境省のレッドリストでは、クチバテングコウモリは「情報不足（DD）」に分類されています。これは、現時点での情報が限られており、絶滅の危険度を評価することができない状態であることを意味します。しかし、生息地が極めて限定されていること、生息数が少ないと考えられることから、絶滅の危機に瀕している可能性も否定できません。早急な生息状況の調査と、適切な保全対策が求められています。

今後の展望

クチバテングコウモリは、その稀少性から「幻のコウモリ」とも呼ばれています。生態や生息状況など、不明な点が多いことから、今後の調査によって新たな発見があるかもしれません。また、保全対策を進めることで、将来にわたってその姿を見ることができるように願っています。

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