クチヒゲタマリン

オマキザル科（あるいはマーモセット科とも分類されることがあります）に属する小型の霊長類、クチヒゲタマリン（Saguinus mystax）は、その名の通り、鼻から口元にかけて広がる独特の白い毛が最も印象的な特徴です。この白い毛は、あたかも三つ葉のクローバーのような形状をしており、和名の由来となっています。主に南米大陸のアマゾン流域に分布し、熱帯雨林の中で暮らしています。

形態

成獣の体は頭から胴体までで235ミリメートルから280ミリメートルほどの長さになり、それに加えて365ミリメートルから424ミリメートルという体長を上回る長い尾を持っています。体重は450グラムから650グラム程度で、タマリン類としては標準的なサイズです。興味深い点として、メスはオスに比べてわずかに体格が大きい傾向が見られます。

全身の体毛は概ね黒っぽい色合いですが、顔面、特に鼻部や口部の周囲に生える白い毛が非常に目立ちます。この白い毛が特徴的な「口髭」を形成しています。尾は全身と同じく黒色をしています。

分布

クチヒゲタマリンの自然な生息域は南米に限定されており、ブラジルとペルーの一部地域に分布しています。具体的には、ブラジル国内のアクレ州やアマゾナス州、そしてこれらに隣接するペルーの熱帯雨林地帯で見られます。

生態

このサルは昼行性であり、太陽が昇っている時間帯に活発に活動します。生活の場は完全に樹上であり、地面に降りることはほとんどありません。熱帯雨林の比較的高い位置、森林の中層部から樹冠にかけての空間を利用して生活しています。同じ生息域に暮らす他のタマリン類、例えばセマダラタマリン類とは異なる高さの空間を主に使うことで、食物などを巡る競争を避けつつも、時には彼らと混ざり合って共に採食や移動を行う「混群」を形成することが知られています。

食性は非常に多様性に富んでいます。主な食べ物は、森で採れる様々な果実、花、花の蜜、そして木の幹から出る樹液（樹脂）です。これらに加えて、タンパク源として昆虫を積極的に捕食します。さらに、機会があればトカゲやカエル、あるいは鳥の雛といった小型の脊椎動物も捕えて食べるなど、日和見的な捕食行動も見られます。

分類

クチヒゲタマリンの分類は、研究者によって見解が分かれる複雑な歴史を持っています。かつては、クチヒゲタマリン（Saguinus mystax）とは別に、アカボウシタマリン（S. pileatus）やレンベルグタマリン（S. pluto）がそれぞれ独立した種として認識されていました。

しかし、1968年に霊長類学者P. Hershkovitzは、これらを単一の種であるクチヒゲタマリンの地理的変異とみなし、クチヒゲタマリンには3つの亜種、すなわちスピックスクチヒゲタマリン（S. m. mystax）、アカボウシクチヒゲタマリン（S. m. pileatus）、シロシリクチヒゲタマリン（S. m. pluto）が存在するという説を提唱しました。この説は長らく有力視され、2016年の分類体系でも踏襲されています。

一方で、2001年にはC. P. Grovesがアカボウシタマリンを再び独立種として扱い、クチヒゲタマリンにはスピックスクチヒゲタマリンとシロシリクチヒゲタマリンの2亜種のみが含まれるとする別の説も提示されました。

さらに近年、遺伝学的研究などの進展により、分類は再び見直されています。2022年に発表されたLopesらの研究では、これまでのアカボウシクチヒゲタマリンとシロシリクチヒゲタマリンを合わせてSaguinus pileatusという独立した種として分割し、さらにブラジルの特定の地域に生息する集団をSaguinus kulinaという全く新しい種として記載する説が提唱されました。この最新の見解に従うならば、狭義のクチヒゲタマリン（Saguinus mystax）は、従来のスピックスクチヒゲタマリンのみを含む、亜種を持たない単型種ということになります。

各亜種（または独立種と見なされる集団）は、微妙な形態的特徴や生息地の違いによって区別されます。例えば、スピックスクチヒゲタマリンは頭部が淡黒色で背中に黄土色や黒の斑模様があり、ブラジルのジュルア川以西やペルーに分布します。アカボウシクチヒゲタマリンはブラジルのプルス川以西に生息し、名前の通り頭頂部の毛が赤っぽいのが特徴です。シロシリクチヒゲタマリンはブラジルのプルス川東部などに生息するとされ、尾の付け根から下腹部にかけてが白い点で識別されます。

このように、クチヒゲタマリンとその近縁種の分類は現在も活発に研究されており、今後も変更される可能性があります。

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