クニガミトンボソウ

クニガミトンボソウ（Platanthera sonoharae）

クニガミトンボソウは、ラン科のツレサギソウ属に分類される美しい多年生草本です。この植物は特に琉球列島の沖縄本島や西表島、さらには台湾に見られますが、環境省のレッドリストでは絶滅危惧IA類に指定されており、非常に希少な存在です。そのため、種の保存法に基づき、採集や譲渡は法律で禁止されています。

特徴

クニガミトンボソウは、同じ属のトンボソウに似た形態を持ちます。土中には紡績形の塊根があり、地面の中で栄養分を蓄えて生育しています。成長した茎の高さは15～25cm程度で、茎の下部には線状披針形の葉が2～3枚互生しています。これらの葉の幅は5～8mmと細く、トンボソウに比べて明らかに細長いのが特徴です。

茎の上部には約1.5cmの長さの葉があり、花序は頂生で、通常6～20個の淡黄緑色の花がつきます。これらの花は美しさとともに、独特の形状をしています。唇弁の浅い3裂や鈍頭の側裂片、さらに細長い距が特徴的で、その長さは4～10mm程度に達します。

生育環境

この植物は典型的な渓流植物であり、河川の中流域、特に洪水時に水没するような湿った岩の上で生育しています。このような条件の中で、クニガミトンボソウは水分を十分に吸収し、独自の生態系を形成しています。水流や岩の影響を受ける環境の中で、しっかりと根を張り、耐久性を持っているのが特長です。

植物園での展示

沖縄県本部町にある海洋博公園熱帯ドリームセンターでは、クニガミトンボソウが展示されています。この展示は、種の保存法施行前に生息域外保全を目的に栽培された個体からの増殖によるものです。この活動は、希少な植物の保全を促進するための重要な取り組みといえます。

展示は訪れる人々にとって、この美しく貴重な植物を体験できる貴重な機会を提供しており、教育的な役割も果たしています。クニガミトンボソウを通じて、環境の大切さや生物多様性の重要性について考えるきっかけとなることを期待しています。

参考文献

1. 横田昌嗣・治井正一・平岩篤・横田昌嗣(追補)・阿部篤志(追補)「クニガミトンボソウ」『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版（菌類編・植物編）―レッドデータおきなわ―』沖縄県、2018年3月、421–422頁。
2. 遊川知久著「クニガミトンボソウ」、大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司編『フィールド版改訂新版 日本の野生植物』 1巻、平凡社、2021年、171頁。
3. 砂川愛子・稲田幸太・端山武・具志堅江梨子・佐藤裕之・阿部篤志・天野正晴「海洋博公園熱帯ドリームセンターにおけるパルダリウムを用いた生息域外保全株の展示」『日本植物園協会誌』第57号、(公社)日本植物園協会、81–86頁、2023年。

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