クラウス・シリング

クラウス・シリング：ダッハウ強制収容所における人体実験と悲劇の生涯

クラウス・カール・シリング (1871年-1946年) は、熱帯医学を専門とするドイツの医師でした。彼の名は、ダッハウ強制収容所で行われた非人道的なマラリア人体実験への関与によって、今もなお暗い歴史に刻まれています。

ミュンヘン生まれのシリングは、ベルリン大学でロベルト・コッホに師事し、マラリア研究に携わりました。その後、トーゴやドイツ領東アフリカで医師として勤務し、ロベルト・コッホ研究所の熱帯医学部長を務めるなど、医学分野でキャリアを重ねました。1920年代には、イタリアやベルリンの病院で精神病患者を対象とした血清学的実験も行っています。1936年には教授に就任し、順風満帆な研究生活を送っていました。

しかし、転機が訪れたのは1941年です。ローマで全国健康指導者レオナルド・コンティと会談し、SS長官ハインリヒ・ヒムラーがダッハウ強制収容所でマラリア研究を継続することを要望していることを知らされます。これが、シリングの運命を決定づける出来事となります。

1942年2月、シリングはダッハウ収容所内に研究所を設置し、マラリア治療に関する研究を開始しました。しかし、その研究は、人道に反するものでした。彼は、マラリア原虫を持つ蚊に収容者を晒したり、唾液腺から直接原虫を注射するなどして、人為的にマラリアを発症させました。被験者となった収容者の数は1000人を超えたと推定されています。彼らが開発した合成マラリア治療薬「ボーリンガー2516」の効果もまた、収容者を使って確認されました。実験対象となったのは、当初はポーランド出身の聖職者でしたが、後にイタリア人やロシア人も含まれるようになりました。

これらの非人道的な実験により、直接的な死者は約30名、後遺症による死者は300～400名に上ったと言われています。ヒムラーの直接命令による実験は1945年4月5日に行われた1回のみでしたが、それ以外にも複数回に渡り実験が行われていたことが判明しています。シリングの助手には、1943年頃までルドルフ・ブラヒテル、その後1944年半ばまではクルト・プレトナーが務めていました。

終戦後の1945年11月15日、シリングはダッハウ主要裁判で他の39人の被告とともに起訴されました。1945年12月13日、死刑判決が確定します。判決では、マラリアに関する擬似医療実験とその犠牲者全てについて責任を問われました。ノーベル化学賞受賞者のハインリッヒ・ヴィーラントは、シリングの死刑判決について個人的な声明を発表し、その才能と、同時に非人道的な行為への関与を複雑な感情で表現しました。

1946年5月28日、ランツベルク戦犯収容所で、クラウス・シリングは絞首刑によって処刑されました。彼の生涯は、医学における才能と、人道に対する重大な罪悪感を併せ持つ、悲劇的な物語として歴史に刻まれています。彼の行為は、医学研究における倫理の重要性を、改めて痛烈に問いかけるものです。ダッハウ強制収容所での人体実験は、医学史における暗黒の時代の象徴として、未来への警告として記憶され続けなければなりません。

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