クラリッサ

『クラリッサ』（原題：the History of a Young Lady）は、18世紀のイギリスの作家サミュエル・リチャードソンによって書かれた書簡体小説です。1748年に発表され、その長大な物語と登場人物の心理描写の深さから、リチャードソンの最高傑作と評されています。

物語は、主に登場人物たちの手紙のやり取りを通して展開されます。主人公のクラリッサ・ハーローは、美しく高貴な若い女性です。彼女の家族は、最近になって財を成し、貴族社会への仲間入りを強く望んでいました。当初、ハーロー家は、一族の財産をクラリッサの兄ジェームズに集中させようとしていました。ジェームズは財力と権力を背景に、貴族の称号を得ようとしていたのです。しかし、クラリッサの祖父の死後、彼女自身に莫大な遺産が残されることになり、事態は変化します。家族は、クラリッサを伯爵の相続人であるロバート・ラヴレースと結婚させることで、ハーロー家をさらに貴族社会へ進めようとしました。しかし、クラリッサとラヴレースの関係は、ジェームズがラヴレースに決闘を申し込むことで悪化します。

一方、ジェームズは、クラリッサにロジャー・ソームズとの結婚を提案します。ソームズは、ジェームズの財産を利用してロード・ハーローの爵位を得ようと目論んでいました。ハーロー家はクラリッサとソームズとの結婚を強引に進めようとしますが、クラリッサはソームズの粗野な態度に嫌悪感を抱きます。自由を求めるクラリッサは、ラヴレースと連絡を取り合うようになります。ラヴレースは、クラリッサを騙して駆け落ちするように仕向けます。ハーロー家の使者が二人の逃亡に気づき大声で知らせますが、クラリッサはラヴレースとの逃亡に成功します。

しかし、クラリッサを待ち受けていたのは、ラヴレースによる数ヶ月に及ぶ監禁生活でした。ラヴレースはクラリッサを様々な場所に監禁し、ついには売春宿にまで連れ込みます。クラリッサは、ラヴレースの求婚を拒否し、彼から逃げ出そうとしますが、何度も失敗に終わります。

ラヴレースは、ハーロー家からの仕打ちへの復讐心と、クラリッサへの歪んだ愛情から、彼女の体と心を支配しようとします。彼は、クラリッサが純潔を失えば、自分との結婚を受け入れざるを得ないと信じていたのです。しかし、クラリッサの美徳に触れるにつれて、ラヴレースは純潔な女性の存在を認めざるを得なくなります。彼は焦燥と情欲に駆られ、ついにクラリッサを薬で眠らせて強姦してしまいます。売春宿の女主人シンクレア夫人や他の売春婦も、この犯罪に協力していました。クラリッサはラヴレースとの結婚を拒否し、再び売春宿から逃亡を試みますが、またしても捕らえられ監禁されてしまいます。二度の逃亡により借金を背負ったクラリッサは、数日間投獄された後、商人とその妻の助けを得て聖域を見つけます。

その後もラヴレースは、友人ジョン・ベルフォードの助けを借りてクラリッサに求婚を続けますが、クラリッサは拒否します。ラヴレースの執拗な求愛は、クラリッサの精神を疲弊させ、彼女は重い病に倒れてしまいます。病状が悪化する中、クラリッサはベルフォードと親交を深め、遺言を託します。クラリッサは死を受け入れ、身辺を整理し始めます。ベルフォードはクラリッサの死を前に、彼女の毅然とした態度に驚き、ラヴレースの仕打ちを深く悲しみます。ベルフォードはラヴレースに、「もしクラリッサが私に、貴様の首を絞めろと望むのならば、私はそれを厭わない」と書き送ります。

クラリッサは、純潔の美徳を保ったまま、死後の世界への希望を胸に、いとこのモーデン大佐や多くの人々に看取られながら息を引き取ります。ベルフォードは、クラリッサの遺言通り、彼女の遺品や財産が遺族に渡ったことを確認します。

ラヴレースはヨーロッパへ旅立ちますが、ベルフォードとは連絡を取り合っていました。ラヴレースは、モーデン大佐が決闘を申し込もうとしていることを知ります。ラヴレースはモーデン大佐との決闘を受け、ドイツのミュンヘンで決闘を行います。モーデン大佐は軽傷で済みましたが、ラヴレースは致命傷を負い、翌日死亡します。死の間際、彼は「この罪を償おう！」と言ったと伝えられています。クラリッサの家族は、ようやく自分たちの過ちが彼女を死に追いやったことに気づきますが、時すでに遅く、クラリッサはすでにこの世にいませんでした。物語は、それぞれの登場人物のその後の運命を語って終わります。

『クラリッサ』は、登場人物の複雑な心理描写や、道徳と社会規範の対立、そして悲劇的な結末を通じて、読者に深い感動を与え続けています。また、書簡体小説という形式を巧みに用い、物語にリアリティと奥行きを与えている点も、この作品の魅力です。

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