クラレンス・A・ウォルド

クラレンス・アビアタール・ウォルド

クラレンス・アビアタール・ウォルド（Clarence Abiathar Waldo、1852年 1月21日 - 1926年 10月1日）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活動したアメリカ合衆国の著名な数学者、著述家、そして教育者です。特に、1897年にインディアナ州議会で持ち上がった、円周率の値を特定の数値に定めようとする通称「インディアナ州円周率法案」に対して、その非科学性を指摘し廃案に導く上で極めて重要な役割を果たしたことで広く知られています。

生い立ちと学歴

ウォルドは1852年 1月21日、ニューヨーク州ハモンドで生を受けました。彼は学問の道に進み、コネチカット州ミドルタウンにあるウェズリアン大学で高等教育を受けました。同大学では、1875年に文学士（Bachelor of Arts）の学位を取得し、さらに3年後の1878年には文学修士（Master of Arts）の学位を取得しました。その後、彼は研究を続け、1894年にはシラキュース大学より哲学博士（Ph.D.）の学位を授与されました。

教育者・研究者としてのキャリア

ウォルドのキャリアはその大部分が教育機関での活動に費やされました。学位取得後の1877年から1881年にかけて、母校であるウェズリアン大学の数学科でチューターとして教育者としての第一歩を踏み出しました。その後、インディアナ州テレホートにあるローズ工科大学（現在のローズ＝ハルマン工科大学）に移り、1883年から1891年まで数学教授を務めました。ローズ工科大学では教授職の傍ら、1885年から1886年、および1888年から1889年の二度にわたり学長代理も兼任し、大学運営にも関与しました。

ローズ工科大学を離れた後も、ウォルドはインディアナ州内の大学で教鞭を執り続けました。1891年から1895年までは、インディアナ州グリーンキャッスルにあるデポー大学で数学教授を務めました。続いて1895年からはインディアナ州ラファイエットにあるパデュー大学に招聘され、1898年まで数学科の主任教授として学科を率いました。このように、彼はインディアナ州内の主要な工科大学や総合大学で数学教育の発展に寄与しました。

キャリアの後半には、活躍の場をセントルイスに移しました。1908年から1910年までセントルイス・ワシントン大学で数学教授を務めた後、1910年からは同学の数学と応用力学のセイヤー教授（Thayer Professor）に就任し、数学科の主任も兼務しました。1917年に同大学を退職する際には、その功績が称えられ名誉教授の称号が贈られました。

著述活動と学会活動

教育者としての活動と並行して、ウォルドは著述活動も行いました。彼の唯一の既知の著書は、1888年に出版された『A manual of descriptive geometry, with numerous problems』（数多くの問題つきの図法幾何学のマニュアル）です。この書籍は、図法幾何学の教育において利用されたと考えられます。

また、ウォルドは学術団体の活動にも積極的に参加しました。彼はインディアナ科学アカデミーの創立会員の一人であり、学会の初期からのメンバーとしてアカデミーの発展に貢献しました。その功績が認められ、1897年には同学会の会長を務めました。

インディアナ州円周率法案事件

ウォルドの生涯で最も特筆すべき出来事の一つが、1897年に発生したインディアナ州円周率法案に関する彼の行動です。この年、インディアナ州議会下院では、アマチュア数学者と称する人物が提案した、円周率の値を「正確に」定めるという法案が通過しました。この法案は、科学的に全く根拠のない誤った値を州の公式な円周率として認めようとするものであり、数学者や科学界からは強い批判を浴びました。

法案が州上院での審議に進んだ際、インディアナ科学アカデミー会長であったウォルドは、この科学的に誤った法案が採択されることの危険性を認識しました。彼は積極的に行動を起こし、州上院議員に対し、なぜこの法案が数学的に、そして科学的に受け入れられないのかを詳細かつ説得力をもって説明しました。ウォルドの尽力の結果、法案は上院で採決されることなく、無期限延期となり事実上の廃案となりました。この一件は、ウォルドの科学的誠実さと教育者としての責任感を示すものであり、彼の名を広く知らしめることとなりました。

まとめ

クラレンス・アビアタール・ウォルドは、アメリカ中西部の複数の大学で数学教育に長年貢献した教育者であると共に、自著を通じて数学研究の一端を担った人物です。特に、インディアナ州円周率法案という特異な出来事において、科学の正確性を守るために積極的に介入した彼の行動は、科学と政治の関係、および専門家が社会に対して果たすべき役割を示す象徴的なエピソードとして、今なお語り継がれています。彼は1926年 10月1日にその生涯を閉じましたが、その教育者、研究者、そして科学の擁護者としての足跡は、多くの人々に記憶されています。

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