クラーク撲滅運動

クラーク撲滅運動：ソ連農業集団化と大規模弾圧

1920年代後半から1930年代にかけてソビエト連邦で展開されたクラーク撲滅運動は、農業集団化政策の一環として、裕福な農民（クラーク）とみなされた人々に対する大規模な弾圧でした。この運動は、ソ連経済の工業化と社会主義体制の構築を目的とする政策でしたが、その過程で数百万人の農民が犠牲となり、深刻な人道危機を引き起こしました。

クラークとは？

「クラーク」は、ロシア語で裕福な農民を意味する言葉です。ソビエト政府は、クラークを資本主義の残滓と見なし、集団化への抵抗勢力として敵視しました。しかし、クラークの定義は曖昧で、実際には中農や貧農も弾圧の対象となるケースが多々ありました。

レーニン政権下の布告と初期段階

ロシア革命後のレーニン政権は、土地国有化政策を推進しました。地主階級は消滅しましたが、農業生産は低迷し、ロシア内戦による社会混乱も重なり、食糧供給は危機的な状況に陥りました。こうした状況の中、レーニンはクラークをソ連政権の敵と位置づけ、撲滅の方針を打ち出しました。しかし、初期段階ではクラークへの弾圧は限定的であり、1919年にはレーニン自身、富農の完全没収や抹殺は行わないよう方針を修正しています。

スターリン政権下の徹底的な弾圧

1920年代後半、スターリンが権力を掌握すると、クラーク撲滅運動は新たな段階に入ります。スターリンは、1928年に開始された第一次五カ年計画を成功させるため、農民からの穀物収奪を強化し、集団農場への強制加入を推し進めました。この計画は、穀物を輸出することで得た外貨を工業化に投資することを目的としていましたが、実際には農民の生活は困窮し、大規模な飢饉を引き起こすことになりました。

スターリンは、集団化に反対する農民をクラークと断定し、徹底的な弾圧を行いました。1929年、スターリンは「階級としてのクラークの絶滅」を宣言し、クラークとその家族の逮捕、追放、処刑を命令しました。弾圧は、地元の党員指導者に任されることが多く、恣意的で残酷な方法で実行されました。農民たちは、土地、家畜、財産を奪われ、シベリアなどの強制収容所に送られ、過酷な強制労働を強いられました。

ホロドモールとウクライナ

クラーク撲滅運動は、ウクライナにおいて1932年から1933年にかけて発生した大飢饉（ホロドモール）を悪化させました。ホロドモールは、スターリン政権による穀物の強制徴発と集団化政策が主要因とされています。この飢饉で何百万人もの人々が死亡しました。

バルト三国への影響

ソ連は1940年にバルト三国を占領し、クラーク撲滅運動を展開しました。エストニア、リトアニアなどでも、多くの農民が弾圧され、財産を没収されたり、強制収容所に送られたりしました。リトアニアでは、独立運動の弾圧と、ナチス・ドイツ占領によるユダヤ人大虐殺も重なり、社会は大きな混乱に見舞われました。

犠牲者数と歴史的評価

クラーク撲滅運動の犠牲者数は、正確な数字は不明ですが、数百万人に上ると推定されています。この運動は、ソ連社会主義体制の構築に貢献したと主張する向きもありますが、多くの犠牲者を出した非人道的な弾圧であったことは否定できません。近年、歴史学者の間では、この運動をジェノサイド（集団殺戮）とみなすべきかどうかの議論が活発に行われています。

まとめ

クラーク撲滅運動は、ソ連の歴史において、最も暗い時代のひとつであり、ソ連の農業集団化政策の失敗とスターリン体制の残酷さを象徴する出来事です。この運動は、社会主義体制構築という名のもとに行われた大規模弾圧であり、歴史に大きな影を落としています。 その歴史的背景、過程、そして結果を理解することは、現代社会においても重要な課題です。

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