クリア・チャンネル社のメモ

9.11テロ後のラジオ局オンエア自粛リスト：選曲の意図と影響

2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件は、社会全体に大きな影響を与え、メディアも例外ではありませんでした。事件直後、全米で多数のラジオ局を所有するクリア・チャンネル・コミュニケーションズ社（現アイハートメディア社）は、番組ディレクターに対し、オンエアするにあたって「歌詞的に問題がある」と感じられる楽曲のリストを内部メモとして回覧しました。

このリストは、クリア・チャンネル社が傘下のラジオ局に対し、特定の楽曲のオンエアを禁止するものではなく、あくまで「オンエアを自主的に控えたいと思われる曲」の提案として提示されたものです。しかし、このリストが独立系のニュースレターを通じて公にされたことで、メディアの注目を集めることになりました。

リストの内容

リストには、AC/DC|AC_DCの楽曲が最多の7曲含まれていたほか、「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのすべての曲」といったアーティスト単位での指定や、複数のアーティストによってカバーされている特定の楽曲（例：ガンズ・アンド・ローゼズとボブ・ディランの「Knockin' on Heaven's Door」）など、165項目に及ぶ提案が記載されていました。

興味深いことに、ある楽曲の特定のバージョンのみがリストに含まれるケースも見られました。例えば、エイリアン・アント・ファームによる「Smooth Criminal」のカバーはリストに掲載されている一方で、マイケル・ジャクソンのオリジナル・バージョンは含まれていません。同様に、「Last Kiss」のJ. Frank Wilsonのバージョンは含まれているが、パール・ジャムのバージョンは除外されています。

リスト作成の意図

クリア・チャンネル社がこのリストを作成した背景には、テロ事件直後の社会情勢を考慮し、聴取者の感情に配慮しようという意図がありました。歌詞の内容や曲調が、事件後の人々の心情を傷つけたり、不快感を与えたりする可能性のある楽曲を自主的に選別することで、より適切な番組編成を目指したと考えられます。

リストが与えた影響

このリストは、メディアを通じて広く知られることとなり、音楽業界や言論の自由に関する議論を巻き起こしました。一部からは、表現の自由を侵害するものであるという批判も上がりましたが、一方で、社会情勢を考慮した自主規制は当然であるという意見もありました。

この出来事は、音楽が社会に与える影響の大きさ、そしてメディアの役割について改めて考えさせられる契機となりました。また、非常時における表現の自由と社会的責任のバランスについて、議論を深めるきっかけにもなりました。

まとめ

クリア・チャンネル社によるオンエア自粛リストは、9.11テロ事件後の社会情勢を反映したものであり、音楽が社会に与える影響の大きさを示すものでした。このリストは、表現の自由に関する議論を巻き起こし、メディアの役割について改めて考えさせられる出来事となりました。

参考文献
Bertin, Michael (2001年11月30日). “Imagine: The music business in a post-911 world”. The Austin Chronicle.
Clear Channel Communications, Inc. (18 September 2001). "Clear Channel Says National "Banned Playlist" Does Not Exist" (PDF) (Press release).
Friedlander, Paul; Peter Mill (2006). Rock and Roll: A Social History. Basic Books.
Klinenberg, Eric (2007). Fighting for Air: The Battle to Control America's Media. Macmillan.
Kolodzy, Janet (2006). Convergence Journalism: Writing and Reporting Across the News Media. Rowman & Littlefield.
Milner, Andrew (2004). Literature, Culture And Society. Routledge.
Strauss, Neil (2001年11月19日). “The Pop Life; After the Horror, Radio Stations Pull Some Songs”. Arts (The New York Times).

関連事項
表現の自主規制
* 要注意歌謡曲指定制度

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