クリスティーン (小説)

スティーヴン・キングの筆によるホラー長編小説で、1983年に発表されました。

概要

物語の舞台はペンシルベニア州リバティーヴィル。主人公は、どこか頼りなく、思春期特有の劣等感を抱える17歳の青年アーニー・カニンガムです。ある日、親友であるデニスと一緒に帰宅途中、彼はある家の庭先に打ち捨てられた古い車に目を奪われます。それは、かつて美しい姿を誇った1958年式のプリムス・フューリーでした。この車に抗いがたい魅力を感じたアーニーは、持ち主である頑固な老人ローランド・ルベイから、手持ちの少ない資金で買い取ります。アーニーはこの車に「クリスティーン」と名付け、懸命なレストア作業に取り掛かります。しかし、クリスティーンは単なる老朽化した車ではありませんでした。その車体には、底知れない邪悪な意志が宿っており、アーニーがクリスティーンを修理し、愛情を注ぐにつれて、彼は少しずつその存在に呑み込まれていきます。気弱だったアーニーは、クリスティーンの影響を受けて自信過剰かつ攻撃的な性格に変貌し、周囲との軋轢を生むようになります。

あらすじ

アーニーがクリスティーンを手に入れたことから、彼の人生は大きく変わります。最初は車の修理に没頭する健全な趣味に見えましたが、クリスティーンは驚異的な自己再生能力を見せ、まるで生きているかのように傷が癒えていきます。そして、車に宿る邪悪な力は、アーニーの精神を徐々に支配し始めます。アーニーの親友デニスは、彼の変化とクリスティーンに不信感を抱き、車の過去を探り始めます。初代オーナーであるローランド・ルベイの弟ジョージから語られる壮絶な過去を知るにつれ、クリスティーンが過去に多くの悲劇を引き起こしてきた「呪われた車」であることを確信します。

アーニーにはリー・キャボットというガールフレンドができますが、クリスティーンは彼女に激しい嫉妬を向け、二人の関係を引き裂こうとします。クリスティーンによる妨害や危険な出来事が続き、リーはアーニーと距離を置くようになります。また、リバティーヴィル・ハイスクールの不良グループが、アーニーとのトラブルの腹いせにクリスティーンを徹底的に破壊する事件が起こります。しかし、クリスティーンは驚異的な力で完璧に再生し、不良グループへの血塗られた復讐を開始します。彼らは一人また一人と、無慈悲な手によって命を奪われていきます。地元の警察、ルドルフ・ジャンキンズ刑事は一連の不審な事件を捜査しますが、超常的な力を持つクリスティーンの仕業であるとは考えも及びません。

デニスとリーは、変貌してしまったアーニーと、次々と凶行を重ねるクリスティーンを止めるため、危険な計画を実行することを決意します。彼らはクリスティーンの破壊を試みますが、車に憑依した邪悪な魂は強大であり、激しい抵抗を受けます。

主な登場人物

アーニー・カニンガム: 物語の中心人物。内気で冴えない青年だったが、クリスティーンと出会って以降、邪悪な力に感化され、攻撃的な人格へと変貌していく。
デニス・ギルダー: 本作の語り手であり、アーニーの幼馴染であり親友。アーニーの異変に気づき、クリスティーンの恐ろしい正体を探り、彼を救おうと奔走する。
リー・キャボット: アーニーの恋人。クリスティーンの嫉妬の標的となり、命の危険に晒されたことでアーニーと別れるが、後にデニスと協力して事態の収拾を図る。
ローランド・ルベイ: クリスティーンの最初の持ち主。アーニーに車を譲った直後に病死する。
ジョージ・ルベイ: ローランドの弟。デニスに兄とクリスティーンの忌まわしい過去を語る。
バディー・レパートンとその仲間: クリスティーンを破壊した不良グループ。車からの容赦ない報復を受けることになる。

映像化

本作は、出版と同年の1983年にジョン・カーペンター監督によって映画化されています。

作品のテーマ

この物語は、単なるホラーに留まらず、思春期の主人公が抱える自己否定感や疎外感が、邪悪な存在に付け込まれる危うさを描いています。また、車という無機物が意思を持ち、人間の感情、特に独占欲や復讐心といった負の感情を増幅させる媒体となることで生まれる恐怖を表現しています。クリスティーンは単なる道具ではなく、アーニーの支配者となり、彼の人生だけでなく、彼を取り巻く人々の運命をも狂わせていく、強烈なキャラクターとして描かれています。

作品全体を通して、青春時代の悩み、友情や恋愛のもつれ、そして抗いがたい超常的な力との戦いが、容赦ないゴア描写と共に展開され、読者に深い戦慄を与えます。

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