クリティアス (対話篇)

プラトンの未完の傑作『クリティアス』：アトランティス物語

プラトンの後期対話篇『クリティアス』は、その未完という点においても大きな謎を秘めた作品です。本篇は『ティマイオス』の直接的な続編として位置づけられており、副題に「アトランティスの物語」とあるように、アトランティス大陸に関する詳細な記述が期待される一方、物語は途中で途切れており、その結末を知ることはできません。

対話篇の舞台と登場人物

物語の舞台は、アテナイのパナテナイア祭が行われる夏のソクラテスの家です。登場人物は、ソクラテスに加え、『ティマイオス』にも登場するロクリス出身の哲学者ティマイオス、プラトンの曽祖父であるクリティアス、そしてシケリアの政治家、ヘルモクラテスです。

アテナイとアトランティスの対比

『クリティアス』では、まず古代アテナイの理想的な姿が描かれます。アテナとヘパイストスによって造られた9000年前のアテナイは、現在の都市国家よりもはるかに広大で肥沃な土地を誇り、職人、農民、守護者たる軍人階層といった明確な社会階層が形成されていました。さらに、理想的な統治が行われ、その徳は周辺地域にまで知れ渡っていたとされています。

対照的に、アトランティス島はポセイドンによって支配された島として描かれます。ポセイドンは島に居住する女性と結婚し、5組の双子の男児をもうけ、10人の王子たちがアトランティスを統治する王となりました。アトランティスは莫大な富と軍事力を背景に繁栄を極め、地中海の覇権を握るほどに強力な国家へと発展します。しかし、その繁栄は長くは続きませんでした。代を重ねるごとに王たちは神性を失い、ゼウスの怒りを買って滅亡の道を辿ることになります。

未完の物語と残された謎

物語は、アトランティスの繁栄とゼウスの怒りの記述途中で突然中断します。クリティアスはアトランティスの滅亡について語る前に物語を終わらせており、その後の展開は一切明かされません。この未完は、読者にアトランティスの運命、そして古代社会の興亡について想像の余地を与えるとともに、プラトンの哲学思想への深い考察を促すものとなっています。

『ヘルモクラテス』への伏線

『クリティアス』の終盤では、ヘルモクラテスにも話をしてもらうことが予告されています。これは『ヘルモクラテス』という続編対話篇が構想されていたことを示唆しています。しかしながら、この『ヘルモクラテス』は現存しておらず、アトランティスの物語の全貌を知ることは永遠に叶わないのかもしれません。

歴史と哲学の融合

『クリティアス』は、単なる架空の物語ではなく、プラトンの哲学思想を反映した作品でもあります。理想国家と現実世界の対比、人間の徳と堕落、神と人間の関係といったテーマが、アトランティスの物語を通して深く掘り下げられています。その未完という点も含め、『クリティアス』は、今もなお多くの研究者や読者を魅了し続けているプラトンの代表作と言えるでしょう。

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