クルスク州への侵攻 (2024年)

ウクライナ軍によるクルスク州への侵攻

2024年8月6日、ウクライナ軍はロシア西部のクルスク州へ越境攻撃を開始しました。この作戦は、ロシアによるウクライナ侵攻以降、最大規模の越境攻撃となり、両軍の間で激しい戦闘が繰り広げられました。

侵攻の概要

8月6日、数百人のウクライナ軍部隊がクルスク州のスジャ付近を越境したとロシアが発表しました。翌7日にはクルスク州に非常事態宣言が発出され、10日にはウクライナのゼレンスキー大統領が越境攻撃を事実と認めました。ロシア国防省は11日、ウクライナ軍がロシア領内で最大30キロメートルまで前進していることを明らかにしました。

アメリカのホワイトハウスは、この時点でロシアが核兵器を使用する兆候は見られないと発表しましたが、ウクライナ軍はクルスク州に「駐屯司令部」を設け、82の集落を掌握したと報告しました。ウクライナ軍は国境から35キロの地点まで進み支配地域を拡大しましたが、ロシア軍の援軍により前進速度は鈍化しました。また、ウクライナ軍はクルスク州で100人以上のロシア兵を捕虜にしたと伝えられています。

8月16日、ウクライナ軍は1キロから3キロ前進したと発表。一方で、ロシア国営タス通信はウクライナ軍がセイム川にかかる橋を破壊し、民間人の避難を妨害していると報道。ウクライナ空軍司令官は、この橋を破壊した空撮映像を公開し、クルスク州での越境作戦への関与を明らかにしました。

ウクライナ政府関係者は、この攻撃の目的を「公正な交渉プロセスに入るようロシアを説得するため」と説明しましたが、ロシア側は「NATOと西側の特殊部隊が計画に関与している」と主張しました。ウクライナの軍事専門家は、今回の作戦に精鋭部隊が投入されていると指摘し、電子戦も展開してロシア軍の無人機を無力化していると述べました。また、ウクライナ軍が攻撃を進めるにあたって、自国の無人機を使うだけでなく、妨害電波を出すなどの電子戦も展開し、ロシア軍の無人機を無力化する戦術もとったと語り、この攻撃は、ウクライナ軍が東部での防衛だけでなく、優れた反攻作戦を行うこともできると世界に示したと述べました。

アメリカCNNは、ロシア軍がウクライナ軍を撃退するために前線から部隊を呼び戻していると報じましたが、ロシア軍の大部分はウクライナの東部と南部に展開したままでした。ウクライナのゼレンスキー大統領は17日、「作戦は想定どおりに進んでいる」と述べました。また、ウクライナ軍はセイム川にかかる別の橋を攻撃し、ロシア軍の兵站能力を奪い続けていると発表しました。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、この作戦がロシア軍に戦略上の大きな圧力を生み出していると分析し、ウクライナ軍の目標は州都クルスクの占領ではなく、ロシア軍の戦力分散とプーチン大統領への政治的打撃だと指摘しました。一方で、ロシア軍がクルスク州の奪還作戦に乗り出すのはほぼ確実だと予測しました。

8月19日、ロシアの調査委員会はウクライナ軍がセイム川にかかる3本目の橋を破壊したと発表しました。同日、ゼレンスキー大統領は越境攻撃が目標を達成していると強調し、ウクライナ軍が1250平方キロの地域と92の集落を制圧したと主張しました。また、ロシア兵をほぼ排除したと述べました。ウクライナ軍は、攻撃に米国製のハイマースを使用していることを初めて公式に発表しました。

ロシア軍の反撃

9月10日、ロシア軍は装甲車でクレプナ川を渡河し、ウクライナ軍を押し戻す反撃を開始しました。ロシア軍はクルスク方面に部隊を転進させ、ウクライナ軍部隊を包囲しようと試みました。海軍歩兵はコレネフスキー地区から反撃を開始し、スナゴスト付近まで前進しました。ロシア軍はグルシコフスキー地区からも反撃を開始し、ヴネザプノエとゴルデエフカを解放しました。

ウクライナ軍も反撃しましたが、ロシア軍の攻撃によりスナゴスト村から後退を余儀なくされました。10月11日には、ロシア軍がリュビモフカ村を突破し、ウクライナ軍の主要幹線道路を制圧。これによりウクライナ軍のクルスク左翼が崩壊し、主力部隊が撤退を余儀なくされました。この攻撃により、ロシア軍は1日で直線距離10キロメートル以上前進しました。10月15日までに、オブオフカから南のウクライナ軍は撃破され、国境まで押し戻されました。

11月中旬には戦線は膠着状態となりましたが、12月に入るとロシア軍はスジャへの圧力を強め、ウクライナ国境を越えてスームィへ逆侵攻を試みました。しかし、12月10日にはウクライナ特殊作戦軍によって排除されました。

背景と影響

2022年2月のウクライナ侵攻以降、ロシア領内への攻撃は相次いでおり、アメリカやドイツは自国が供与した兵器でロシア領内を攻撃することを容認しています。しかし、今回の越境攻撃は、ウクライナ侵攻開始以後最大規模のものでした。

この侵攻により、クルスク州から7万6000人以上の民間人が避難し、ベルゴロド州でも一部地域の住民が避難を始めました。また、ウクライナ側がクルスク原発を制圧する可能性も指摘され、国際原子力機関が双方に自制を呼びかけました。

まとめ

ウクライナ軍によるクルスク州への越境攻撃は、2024年8月以降、両軍の間で激しい攻防が繰り広げられた作戦でした。ウクライナ軍は一時的に領土を拡大しましたが、ロシア軍の反撃により最終的に国境まで押し戻されました。この侵攻は、ウクライナ戦争における重要な転換点となり、今後の戦況に大きな影響を与える可能性があります。

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