クレイジー・ワールド (スコーピオンズのアルバム)

クレイジー・ワールド (Crazy World)

ドイツが生んだ世界的なハードロックバンド、スコーピオンズが1990年11月6日にリリースした通算11作目のスタジオアルバムです。本作は、特にシングルカットされた楽曲の世界的な大ヒットにより、バンドキャリアの中でも商業的に極めて大きな成功を収めた作品として知られています。

商業的成功と歴史的背景

アルバムはリリース翌年の1991年、アメリカの主要アルバムチャートであるBillboard 200で最高21位にランクインしました。特に、冷戦終結という時代の流れを象徴するようなバラード「ウィンド・オブ・チェンジ」は、Billboard Hot 100で4位という大ヒットを記録し、バンドにとってアメリカでの代表曲の一つとなりました。また、同じくシングルカットされた叙情的な「センド・ミー・アン・エンジェル」も同チャートで44位に到達しています。イギリスにおいては、1991年11月に英国レコード産業協会（BPI）からシルバー認定（売上60,000枚）を受け、これは現在に至るまでスコーピオンズのアルバムがイギリスで達成した唯一の認定となっています。

本作は、長年バンドのリズム隊を支えたベーシスト、フランシス・ブッフホルツが参加した最後のスタジオアルバムです。これにより、1979年のアルバム『ラヴドライヴ』以降続いたメンバー構成でのレコーディングは本作で一旦区切りを迎えました。また、約15年にわたりバンドのサウンドプロデュースを担ってきたディーター・ダークスに代わり、キース・オルセンがプロデューサーに起用された点も特筆されます。こうしたメンバーや制作体制の変更もあり、本作はしばしば「昔ながらの」スコーピオンズのスタイルを受け継いだ最後の作品と見なされることがあります。

収録曲とメディアでの使用

アルバムには、大ヒット曲「ウィンド・オブ・チェンジ」や「センド・ミー・アン・エンジェル」を含む全11曲が収録されています。バラードだけでなく、ハードなロックナンバーも含まれており、バンドの多様な音楽性が示されています。収録曲の中には、後年、映画やテレビドラマなどで使用された楽曲もあります。

「ヒット・ビトゥウィーン・ジ・アイズ」は、1992年のSFアクション映画『フリージャック』で使用されました。
「センド・ミー・アン・エンジェル」は、人気ドラマシリーズ『コールドケース 迷宮事件簿|コールドケース_迷宮事件簿』のエピソードの感動的な最終シーンで使用され、楽曲に新たな文脈を与えました。
「ウィンド・オブ・チェンジ」は、2009年の映画『Mr.ゴールデン・ボール/ 史上最低の盗作ウォーズ|Mr.ゴールデン・ボール_ 史上最低の盗作ウォーズ』でも使用されるなど、時代を超えて多くの作品で耳にされています。

収録曲リスト

1. ティーズ・ミー・プリーズ・ミー (Tease Me Please Me) (4:44)
Music: Matthias Jabs, Jim Vallance / Lyrics: Klaus Meine, Herman Rarebell, J. Vallance
2. ドント・ビリーヴ・ハー (Don't Believe Her) (4:55)
Music: Rudolf Schenker, J. Vallance / Lyrics: H. Rarebell, K. Meine, J. Vallance
3. トゥ・ビー・ウィズ・ユー・イン・ヘヴン (To Be with You in Heaven) (4:48)
Music: R. Schenker / Lyrics: K. Meine
4. ウィンド・オブ・チェンジ (Wind of Change) (5:13)
Music & Lyrics: K. Meine
5. レストレス・ナイツ (Restless Nights) (5:44)
Music: R. Schenker / Lyrics: K. Meine, H. Rarebell, J. Vallance
6. ラスト・オア・ラヴ (Lust or Love) (4:22)
Music: K. Meine / Lyrics: K. Meine, H. Rarebell, J. Vallance
7. キックス・アフター・シックス (Kicks After Six) (3:49)
Music: Francis Buchholz, J. Vallance / Lyrics: H. Rarebell, K. Meine, J. Vallance
8. ヒット・ビトゥウィーン・ジ・アイズ (Hit Between the Eyes) (4:33)
Music: R. Schenker / Lyrics: H. Rarebell, K. Meine, J. Vallance
9. マニー・アンド・フェイム (Money and Fame) (5:06)
Music: M. Jabs / Lyrics: M. Jabs, H. Rarebell
10. クレイジー・ワールド (Crazy World) (5:08)
Music: R. Schenker / Lyrics: K. Meine, R. Schenker, H. Rarebell, J. Vallance
11. センド・ミー・アン・エンジェル (Send Me an Angel) (4:34)
Music: R. Schenker / Lyrics: K. Meine

参加ミュージシャンと制作スタッフ

レコーディングには、当時のバンドメンバーであるクラウス・マイネ（リードヴォーカル）、マティアス・ヤプス（リードギター）、ルドルフ・シェンカー（リズムギター）、フランシス・ブッフホルツ（ベース）、ハーマン・ラレベル（ドラム）の5名が参加しました。多くの楽曲でメンバー全員がコーラスも担当しています。加えて、「ウィンド・オブ・チェンジ」ではコエン・ファン・バールがキーボードを、数名のミュージシャンがコーラスで参加しています。

プロデュースはキース・オルセンが手掛け、エンジニアリングとミキシングも担当しました。アーウィン・マスペルもエンジニアとして参加。シェイ・ベイビーらが補助エンジニア、アティ・バウらがアシスタントエンジニアを務め、マスタリングはグレッグ・フルージニティが行いました。

『クレイジー・ワールド』は、バンドの長いキャリアの中でも、歴史的な出来事とシンクロした楽曲の成功や、バンド体制の過渡期という点において、重要な位置を占める作品と言えるでしょう。

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