クレオパトラ (1963年の映画)

クレオパトラ：ハリウッド黄金期の栄光と挫折

1963年、アメリカ合衆国で公開された歴史超大作映画『クレオパトラ』。エリザベス・テイラー、レックス・ハリソン、リチャード・バートンといったハリウッドを代表するスターたちが共演し、古代エジプトの女王クレオパトラ7世の人生と、ユリウス・カエサル、マルクス・アントニウスとの恋愛を中心に、プトレマイオス朝エジプトの終焉を描いた作品です。しかし、この映画は、その華麗な映像と豪華なキャストとは裏腹に、製作過程で数々の困難に見舞われた、ハリウッド史に名を刻む問題作としても知られています。

製作費4400万ドルの超大作、そして大失敗

映画の製作は1958年に開始されました。20世紀フォックスは、当時の映画産業における観客動員の減少という逆風に立ち向かうため、大規模な製作と上映方式を採用した大作主義を採り、莫大な資金を投じました。しかし、主役のエリザベス・テイラーの度重なる病気、ロケ地の変更によるセットの造り直し、監督交代など、様々なトラブルが撮影を遅らせ、製作費は当初の予算をはるかに超え、最終的には4400万ドル（現在の価値で3億ドル以上）という空前の巨額に膨れ上がりました。

さらに、テイラーと共演者リチャード・バートンの間の不倫スキャンダルも大きな話題となり、製作会社は深刻な財政危機に陥りました。当初は6時間の長編二部作として企画されていましたが、興行的なリスクを考慮し、上映時間は短縮されました。しかし、それでもなお、公開版は様々なシーンがカットされ、ストーリーの繋がりが不自然になっているという問題点を抱えていました。

興行収入は成功も、経営的には大失敗

1963年の北米興行収入でトップを記録し、世界興行収入でも1位を獲得するなど、商業的には成功を収めました。しかし、20世紀フォックスの純利益は製作費の半分にも満たず、経営的には大きな損失となりました。映画会社は、ビバリーヒルズにあった撮影所を売却するなど、財政再建に苦しむことになります。マスコミや批評家からはゴシップ先行の作品として酷評され、「映画史上空前の失敗作」と揶揄されることもしばしばありました。奇跡的に、2年後に公開された『サウンド・オブ・ミュージック』の大ヒットにより、20世紀フォックスは危機を乗り越えることができましたが、『クレオパトラ』は会社にとって大きな痛手となったことは間違いありません。

エリザベス・テイラーと100万ドルの報酬

エリザベス・テイラーは、本作で100万ドルという当時としては破格の出演料を受け取りました。これは、撮影の遅延や病気療養による保険金、70mmトッド-AO方式からの権利金などを含めると、最終的には700万ドル（現在の価値で約4700万ドル）近くに達したといわれています。テイラー自身も、この巨額の報酬について、「だって100万ドルなんていう馬鹿げた出演料を提示してくるんですもの、それを蹴るような馬鹿げたことをする私ではないわ」と語っているという逸話も残されています。

監督マンキーウィッツの苦悩

監督を務めたジョーゼフ・L・マンキーウィッツは、シナリオを書き上げた順に撮影を進めるという方法を採用しました。これは撮影効率の悪化につながり、予算超過の一因となりました。公開版では、彼の意図とは異なる編集が施されたため、マンキーウィッツ自身も作品に強い失望感を抱いていたとされています。

評価の分かれる名作

『クレオパトラ』は、製作過程における様々なトラブルやゴシップ、そして公開後の酷評など、数々の波乱に満ちた作品です。しかし、同時に、豪華な衣装やセット、一流の俳優陣、そして壮大な音楽など、ハリウッド黄金期を象徴する超大作であることも確かです。現在では、プレミア上映時の完全版がデジタル修復され、鑑賞できるようになっています。作品に対する評価は依然として分かれているものの、その歴史的意義と圧倒的なスケールは、多くの映画ファンを魅了し続けています。

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