クレメンス・アウグスト・フォン・バイエルン

クレメンス・アウグスト・フォン・バイエルン：波乱に満ちた生涯と芸術への貢献

クレメンス・アウグスト・フォン・バイエルン（1700年 - 1761年）は、ケルン大司教選帝侯、ドイツ騎士団総長を務め、複数の領主司教を兼ねるなど、高位聖職者として権勢を誇りました。しかし、その生涯は政治的な変転と私生活の奔放さに彩られ、毀誉褒貶が入り混じった人物として知られています。

生い立ちと幼少期

クレメンス・アウグストは、バイエルン選帝侯マクシミリアン2世エマヌエルと、ポーランド王ヤン3世の娘テレサ・クネグンダ・ソビエスカの間に生まれました。父がスペイン領ネーデルラント総督であったため、ブリュッセルで誕生。スペイン継承戦争の影響で、幼少期はオーストリアの捕虜として軟禁生活を送るという苦難も経験しました。その後、父の意向により、兄と共にローマへ留学し、聖職者の道を歩むことになります。

高位聖職者としての活動

1719年、兄の急逝によりミュンスターとパーダーボルンの司教を引き継ぎ、1722年には叔父からケルン大司教の継承者に指名され、翌年、ケルン大司教に就任しました。これは、ヴィッテルスバッハ家がケルン大司教位を維持し、その影響力を利用しようとする父の戦略によるものでした。クレメンス・アウグストはその後、ヒルデスハイム、オスナブリュックの司教も兼任し、1732年にはドイツ騎士団総長にまで上り詰めました。

聖職者としての葛藤と私生活

しかし、クレメンス・アウグスト自身は、聖職者になることに強い意志を持っていませんでした。ケルン大司教就任時には、聖職に就きたくないと周囲に漏らし、父から強制されるという一幕もありました。就任後も、儀式的な職務はこなすものの、仮面舞踏会に日参したり、愛妾を囲うなど、奔放な生活を送りました。また、狩猟や城館・庭園の建設に巨費を投じるなど、領民に大きな負担を強いました。

政治的な変転

父の死後、クレメンス・アウグストは独自の政治行動を取るようになりますが、その方針は一貫せず、気分によって大きく変わりました。当初はオーストリアに接近するも、ポーランド継承戦争ではフランスを支持。その後再びオーストリアに接近し、オーストリア継承戦争では兄カール・アルブレヒトを神聖ローマ皇帝に推戴しました。しかし、兄の没後にはオーストリアに急接近し、甥マクシミリアン3世ヨーゼフとオーストリアとの関係を取り持ち、フランツ・シュテファンに帝冠を贈りました。その変転ぶりから、皇帝フランツ1世に「風見鶏」と揶揄されたほどでした。

死と遺産

1761年、60歳で死去。後継者として弟のヨハン・テオドールを望んでいましたが、その素行不良を理由にローマ教皇に承認されず、ヴィッテルスバッハ家によるケルン大司教職の保全は叶いませんでした。

評価

クレメンス・アウグストは、精神的に不安定な人物であり、側近や各国大使を信頼したかと思えば、突然追放するなど、周囲を混乱させました。その結果、外交政策も二転三転し、聖職者としても政治家としても高い評価を得ることはできませんでした。しかし、芸術面においては、「ブリュールのアウグストゥスブルク城と別邸ファルケンルスト」など、世界遺産に登録された建築物を建設させた功績があります。ボン大学では、彼の芸術に対する貢献に着目した研究が行われています。

クレメンス・アウグストは、その生涯を通じて多くの矛盾を抱えた人物でした。高位聖職者としての地位にありながら、聖職者としての自覚に欠け、政治的な駆け引きに奔走しながらも、その方針は一貫しませんでした。しかし、芸術に対する情熱は本物であり、彼が残した建築物は、今日においても人々に感動を与え続けています。

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