クロトンのミロン

クロトンのミロンは、紀元前6世紀頃に古代ギリシアで活躍した伝説的なレスリング選手です。彼は、当時の全ギリシア的な競技会で圧倒的な強さを見せ、連覇を重ね、なんと24年間もの間、王座を守り続けたと伝えられています。ミロンは、数々のレスリング優勝者を輩出したマグナ・グラエキアの都市、クロトン出身であり、その類まれなる才能は、故郷の誇りでした。

シケリアのディオドロスによれば、ミロンは競技会での輝かしい勝利だけでなく、戦場でもその力を発揮しました。彼は船上での戦闘において、無数の敵兵をなぎ倒し、紀元前510年に勃発した隣国シュバリスとの戦いでは、クロトン軍の勝利に大きく貢献したとされています。彼の武勇は、レスリングの枠を超え、戦士としても人々を魅了しました。

ミロンの驚異的な怪力は、日々の鍛錬によって培われたとされています。特に有名な逸話として、子牛を肩に乗せて運ぶというトレーニングがあったと伝えられています。子牛は成長するにつれて重くなり、ミロンはそれに対応してさらに強くなっていったと言われています。また、この鍛錬の際、額に巻いていたバンドが、血管の膨張によって引きちぎれたという逸話も残っており、彼の常人離れした力を物語っています。

さらに、ミロンは哲学者ピタゴラスとの交流があったとパウサニアスは記しています。ピタゴラスがクロトンに滞在していたある日、宴会場の屋根が崩落する事故が発生しました。この時、ミロンは落下してきた屋根を驚異的な腕力で支え、危うく下敷きになりかけたピタゴラスを救ったとされています。この出来事に感謝したピタゴラスは、娘のミラをミロンの妻として与えたとされ、彼の人間性も垣間見ることができます。

しかし、その強さを誇ったミロンの最期は、悲劇的なものでした。ある日、ミロンは自らの腕力を試そうと、素手で木を引き裂こうとしました。見事に木を引き裂くことに成功しましたが、その際に手が木の裂け目に挟まり、抜けなくなってしまったのです。その直後、木の爆音に驚いた狼の群れがミロンに襲いかかりました。片腕しか使えない状態では、抵抗することもできず、ミロンは無残にも狼たちに食い殺されてしまったと伝えられています。

ミロンは、古代ギリシアにおける力の象徴として、また、その悲劇的な最期を含めて、後世に語り継がれる英雄です。彼の生涯は、力だけでなく、人間としての脆さや運命の残酷さを物語っていると言えるでしょう。

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