クロロタロニル

クロロタロニル：効果とリスクの両面から見た殺菌剤

クロロタロニル (化学式: C8Cl4N2) は、テトラクロロイソフタロニトリルという有機塩素化合物です。別名TPNとも呼ばれ、ダコニールという商品名で広く知られています。高い殺菌効果を持つことから、農業分野では野菜のべと病や果樹の黒星病などの防除に、工業分野では防カビ剤として利用されてきました。

強力な殺菌効果

クロロタロニルは、様々な菌類に対して強い殺菌効果を示します。例えば、コウジカビに対する最小発育阻止濃度(MIC)は1～3ppm、黄色ブドウ球菌では10ppm、緑膿菌では30ppmと報告されています。この強力な殺菌作用が、農業における病害防除に大きく貢献してきた理由です。

安全性に関する懸念

一方で、クロロタロニルは人体への影響についても懸念されています。

発がん性: [国際がん研究機関]は、クロロタロニルを「グループ2B（ヒトに対する発癌性が疑われる）」に分類しています。これは、動物実験において発がん性を示すデータがあることを意味しており、ヒトへの発がんリスクを完全に否定できるものではありません。

皮膚への刺激性: 高濃度のクロロタロニルが皮膚に触れると、刺激性の痒みや炎症を引き起こす可能性があります。誤って皮膚に付着した場合は、すぐに洗い流し、必要に応じて抗ヒスタミン薬やステロイド軟膏を塗布することが推奨されます。

誤飲時の対処: クロロタロニルを含む製剤を誤飲した場合、決して吐かせないようにしてください。炭化水素系溶剤を含む製剤の場合、吐かせる行為により症状が悪化する可能性があります。直ちに医療機関に連絡し、指示を仰ぐことが重要です。

燃焼時の危険性: クロロタロニルを加熱または燃焼させると、塩化水素や窒素酸化物などの有毒で腐食性のガスが発生します。取り扱いには十分な注意が必要です。

適切な取り扱いと今後の展望

クロロタロニルは強力な殺菌効果を持つ一方で、人体への潜在的なリスクも伴います。そのため、取り扱いにおいては、適切な防護服や保護具を着用し、作業環境の換気にも注意を払う必要があります。また、使用後の容器の処分についても、地域の条例に従って適切に行うことが重要です。

近年、環境への影響や健康への懸念から、クロロタロニルの使用を制限する動きもみられます。そのため、より安全で環境に優しい代替品の開発と普及が求められています。今後の研究開発により、より安全な殺菌剤の開発が進み、農業や工業におけるクロロタロニルの使用が適切に管理されることが期待されます。

参考文献

* 『抗菌剤の化学 Part2』西野敦編著 冨岡敏一・荒川正澄著 1997年 工業調査会刊 ISBN 476937058X

もう一度検索