クワイヤボーイズ

『クワイヤ・ボーイズ』（1977年）は、ロバート・アルドリッチ監督によるアメリカ映画で、ジョゼフ・ウォンボーの同名小説を原作とするブラックコメディです。本作は、自らを「クワイヤ・ボーイズ（少年聖歌隊）」と呼ぶ、ロサンゼルス市警の型破りな警官たちの物語を描いています。彼らの奔放で型にはまらない行動、そして職場における腐敗や暴力、差別といった問題が、風刺とユーモアを交えて描かれ、社会への痛烈な批判が込められています。

物語の中心となるのは、個性豊かな警官たちです。定年退職間近のベテラン、ウェーレン警部補（チャールズ・ダーニング）は、一見するとリーダー格ですが、老後の安泰を望み、事件の真相を隠蔽するなど、弱さや矛盾を抱えた人物です。彼の相棒であるバクスター（ペリー・キング）は、ベトナム戦争でのトラウマからマゾヒスティックな傾向を示し、悲劇的な結末を迎えます。バクスターの親友であるサム（ドン・ストラウド）もまた、戦争体験による閉所恐怖症に苦しみ、精神的に不安定な状態に陥っています。

その他にも、アフリカ系アメリカ人のカルビン（ルイス・ゴセット・ジュニア）、日系アメリカ人のタニグチ（クライド・クサツ）、人種差別主義者のロスコー（ティム・マッキンタイア）など、様々な背景や性格を持つ警官たちが登場し、彼らの間の摩擦や衝突、友情や裏切りが複雑に絡み合います。彼らは、公園で酒を飲み騒いだり、同僚をからかったり、時に暴力に訴えたりと、規律を無視した行動を繰り返します。こうした彼らの振る舞いは、現代社会における道徳や倫理の崩壊、そして権力構造の歪みを象徴的に表現していると言えるでしょう。

特に、サムの事件は物語のクライマックスを形成します。閉所恐怖症の症状が悪化したサムは、発砲し、結果的にゲイの少年を死なせてしまうという悲劇的な事態を引き起こします。この事件は、ベトナム戦争の爪痕、そして社会の闇が警官という職業にまで深く食い込んでいることを示唆しています。ウェーレンは、自身の将来を案じ、事件の隠蔽に加担しますが、その後、仲間たちへの罪悪感や怒り、そして元上司への復讐心から、マスコミに真相を暴露するという決断を下します。

映画は、警官たちのハレンチな行動を徹底的に描く一方、ベトナム戦争という歴史的背景や、人種差別、社会における正義と不正といった深刻な問題にも触れています。過激な描写やブラックユーモアは、単なる笑いを誘うためではなく、観客に不快感を与え、社会に蔓延する問題点について考えさせることを意図していると考えられます。また、原作者ウォンボーが、映画の過激な描写に異議を唱え、脚本クレジットから名前を削除したというエピソードも、この映画がいかに問題作であったかを示しています。

『クワイヤ・ボーイズ』は、警官たちの痛快な騒動劇という表層的な面白さだけでなく、複雑な人間模様、社会問題、そして映画製作の裏側まで含めた多層的な物語です。登場人物たちの背景や行動を深く考察することで、この映画が提示するメッセージの奥深さを理解できるでしょう。エンディングテーマとして使用されている「線路は続くよどこまでも」は、警官たちの未来、そして社会全体の不確実な未来を暗示しているかのようです。

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