クーデンホーフ光子

クーデンホーフ＝カレルギー光子の生涯

クーデンホーフ＝カレルギー光子（旧名：青山みつ）は、1874年に東京で生まれました。父は油屋と骨董品店を営む青山喜八、母は津禰です。彼女は小学校卒業後、上流階級向けの料亭で奉公していましたが、1892年にオーストリア＝ハンガリー帝国の駐日代理大使ハインリヒ・クーデンホーフ伯爵に見初められ、大使公邸で小間使いとして働くことになりました。二人の出会いには、伯爵の落馬を手当てしたことがきっかけになったという説もありますが、定かではありません。

1893年、周囲の反対を押し切って、みつはハインリヒと結婚しました。結婚にあたり、みつはカトリックの洗礼を受け、光子という洗礼名を得ました。ハインリヒはカトリック神父リギョールを崇拝しており、その影響もあっての改宗でした。二人は東京で長男ハンス光太郎と次男リヒャルト栄次郎をもうけました。この結婚は、東京府に届けられた初の正式な国際結婚とされています。しかし、当時の国際結婚は、現地妻という認識が強く、光子は実家から勘当されたとされています。また、ハインリヒは青山家に多額の金銭を支払ったとされており、それが光子が日本に帰国しなかった理由の一つとも言われています。

1896年、光子は夫とともにオーストリアへと渡りました。その際、昭憲皇太后から「異国にいても日本人の誇りを忘れないでください」と激励されたと伝えられています。クーデンホーフ家は、ボヘミアとハンガリーに広大な領地を持つ伯爵家であり、一族は極東から来た東洋人である光子を異質な存在として見なしました。しかし、ハインリヒは「光子をヨーロッパ人と同等に扱わない者は決闘をする」と宣言し、光子を守りました。その後、二人の間にはさらに5人の子供が生まれました。光子は夫を「パパ」と呼んでいました。ハインリヒは子供たちを完全にヨーロッパ人として育てようとし、日本語を話すことを禁じ、日本人乳母を帰国させました。光子は夫以外に心を許せる人がおらず、強烈なホームシックに悩まされました。夫婦仲は良好でしたが、教養レベルの差は大きく、光子は渡欧後に自分の無学を恥じ、歴史、地理、数学、語学などを猛勉強しました。

1903年頃、ハインリヒは母方の姓であるカレルギーを加えてクーデンホーフ＝カレルギー姓を名乗り始めました。光子も同様にクーデンホーフ＝カレルギー姓を名乗るようになりました。彼女の墓碑には「Maria Thekla Mitsu Gräfin Coudenhove geb Aoyama」とあり、旧姓の青山が記されていますが、これは旧姓を表しているに過ぎず、カレルギー姓に特に含まれているわけではありません。

1905年の日露戦争での日本の勝利により、光子への偏見は和らぎましたが、翌1906年にハインリヒは心臓発作で急死しました。ハインリヒは遺言で全ての財産を光子に相続させました。しかし、一族は遺産を巡って訴訟を起こしました。光子は自ら法律書を読み勉強し、裁判で勝訴しました。その後、伯爵夫人として簿記などを学び、家政を切り盛りし、子供たちの教育のためにウィーンに移住しました。第一次世界大戦が始まると、オーストリア＝ハンガリー帝国と日本は敵国同士となり、光子への差別は激化しました。また、二人の息子が兵士として従軍するなど、苦難の時期を過ごしました。

戦後、次男リヒャルトが女優のイダ・ローランと結婚すると言い出した際、光子は激怒し、リヒャルトを勘当しました。光子は女優を「河原乞食で魔女」と思っていたため、この結婚に強く反対しました。しかし、リヒャルトは妻の経済的支援を受け、汎ヨーロッパ主義を唱え、ヨーロッパ論壇で活躍することになりました。光子が反対した理由は、イダがユダヤ人で離婚歴があり、年齢もリヒャルトと大きく離れていたためです。

第一次世界大戦により、クーデンホーフ＝カレルギー家は多くの財産を失いました。1925年、光子は脳溢血で右半身不随となり、晩年はウィーン郊外で、次女オルガの介護を受けながら静養しました。当時の生活は質素なものだったと伝えられています。光子の唯一の楽しみは、ウィーンの日本大使館に出かけ、大使館員と日本語で話したり、日本から送られてくる新聞や本を読んだりすることでした。その後、オーストリアはドイツに併合され、次男のリヒャルトは汎ヨーロッパ思想によってドイツから犯罪者扱いされましたが、光子は日本政府に保護されました。

1939年に第二次世界大戦が始まると、光子はドイツ難民としてヨーロッパ各地を放浪し、1941年 8月27日に息を引き取りました。光子はついに日本へ帰国することはありませんでした。葬儀は、兄弟たちが何もせず、アパートの住人たちが手分けして行ったとされています。

光子の愛用したロブマイヤー社のグラスセットは、デザインしたルードヴィッヒ・ロブマイヤーによって「Mitsuko」と名付けられました。また、ゲラン社の香水「Mitsouko」は、光子に由来するものではありませんが、調香師のジャック・ゲランは光子の名前を知っていた可能性が示唆されています。

光子の生涯は、多くの書籍や舞台作品で描かれており、その波乱に満ちた人生は多くの人々に影響を与え続けています。

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