グスタフ・バウアー

グスタフ・アドルフ・バウアー：ヴァイマル共和国初期の首相

グスタフ・アドルフ・バウアー（Gustav Adolf Bauer, 1870年1月6日 - 1944年9月16日）は、ドイツの政治家であり、ドイツ社会民主党（SPD）の有力なメンバーでした。彼はヴァイマル共和国の初期、特に第一次世界大戦後の混乱期に首相を務め、その政治手腕を発揮しました。

生い立ちと初期のキャリア

バウアーは、1870年1月6日に東プロイセンのケーニヒスベルク近郊のダルクエーメン（現在のロシア連邦オジョルスク）で生まれました。彼の父は裁判所職員であり、家庭は安定していました。1884年に国民学校を卒業後、バウアーは弁護士事務所で書記として働き始めました。しかし、1888年に大病を患い、片足を切断するという困難に見舞われました。このハンディキャップにもかかわらず、彼は1893年から著名な法律事務所で事務長を務め、1895年には労働組合「ドイツ事務員中央協会」を設立し、労働者の権利擁護に尽力しました。

1902年に労働組合活動を理由に解雇された後、バウアーはレストランを経営しましたが、一年で辞め、「中央労働者書記局」の代表となりました。1908年から1918年まで、ドイツ労働組合委員会（Generalkommission der Gewerkschaften）の第二書記を務め、労働運動において重要な役割を果たしました。

政治家としての台頭

バウアーはドイツ社会民主党（SPD）に入党し、党内では右派に属していました。彼は第一次世界大戦を支持し、1912年にはブレスラウ（現在のポーランドのヴロツワフ）の選挙区から選出され、ドイツ帝国議会議員となりました。1915年からは議会財務委員を務め、政治家としての地位を確立しました。

1918年、宰相バーデン公マクシミリアンにより労働行政長官に任命され、同じ社会民主党員で前首相のフィリップ・シャイデマンと共にエーベルト内閣に入閣しました。労働長官として、バウアーは工場憲法の導入、20歳以上のあらゆる選挙における普通選挙権、賃金協定の規制、恣意的解雇からの保護、復員労働者の再就職、国民健康保険、地方自治体の社会福祉、公務員組合の権利、農業労働改革、国内労働改革、8時間労働など、多くの重要な法令を発布しました。

ヴァイマル共和国首相として

1918年のドイツ革命によるヴァイマル共和国発足後、バウアーはヴァイマル制憲会議議員となり、1919年1月にマクデブルク選出の国会議員に当選しました。1919年2月にはシャイデマン内閣に労働大臣として入閣し、その手腕を発揮しました。ヴェルサイユ条約の受諾に反対したシャイデマンが首相を辞任した後、1919年6月よりバウアーが首相に就任しました。

ヴェルサイユ条約調印には賛成でしたが、個人的にはその条件に反対しており、就任当日は連合国側に条件面で抗議すると表明しました。しかし、新たな戦争を招きかねないという理由から翌日に撤回しました。在任中はヴェルサイユ条約調印のほか、鉄道を国有化し、マティアス・エルツベルガー財務相と共に財政改革を進めました。

1920年3月、カップ一揆が政府転覆を目論んだ際、バウアーはSPDの他の閣僚や大統領エーベルトとともに、この一揆に反対するゼネストの呼びかけに署名しました。しかし、カップ一揆に対する対応のまずさから党や労働組合の支持を失い、1920年3月26日に首相を辞任しました。

その後

首相退任後も、党友の後継首相ヘルマン・ミュラーの内閣で大蔵大臣及び交通大臣を務め、ヴィルト内閣でも大蔵大臣兼副首相として入閣しました。1925年、汚職スキャンダルのため社会民主党を除名されましたが、翌年党の審査会により除名を取り消されています。1928年を最後に国会議員を辞し、政界を引退しました。

1933年のナチ党政権獲得の直後、脱税容疑で拘留されましたが、その容疑は彼の息子が学校で話したとされる内容に基づいていたため、子供がおらず息子もいないことが判明すると、ナチ党は1週間の拘留の後、バウアーを釈放しました。以後は公の場に姿を現すことはなく、第二次世界大戦中の1944年9月16日にヘルスドルフ（ベルリンのライニッケンドルフ区）で死去しました。

グスタフ・バウアーは、ヴァイマル共和国初期の困難な時代に首相として国を率い、労働者の権利擁護に尽力した政治家として、その名が歴史に刻まれています。

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