グリズリー巡航戦車

グリズリー巡航戦車：カナダが生んだM4シャーマンの変種

第二次世界大戦下、カナダはアメリカ製の戦車設計を基に独自の戦車開発を進めていました。その代表例の一つが、グリズリー巡航戦車です。本車は、アメリカで広く用いられていたM4シャーマン戦車をベースに、カナダ独自の改良を加えた派生型として誕生しました。

グリズリー巡航戦車の開発背景には、カナダにおける戦車生産の変遷が大きく関わっています。当初、カナダはアメリカ製のM3中戦車を改良したラム巡航戦車を生産していました。しかし、戦況の変化とアメリカにおけるM4シャーマンの大量生産開始により、ラム巡航戦車の生産は1943年7月に終了します。そこで、M4シャーマンを基にした新たな戦車の開発が急務となりました。

そして誕生したのが、グリズリー巡航戦車です。本車の最大の特徴は、履帯に採用されたCanadian Dry Pin（CDP）と呼ばれる全鋼製シングルピン型履帯です。このCDP履帯は、従来のM4シャーマンの履帯と比べて重量が約半分と軽量であり、その採用により戦車全体の重量軽減と機動性の向上に繋がりました。さらに、CDP履帯は構造がシンプルで、生産コストも抑えられるというメリットもありました。

モントリオール・ロコモティブ社が1943年8月から生産を開始したグリズリー巡航戦車ですが、アメリカでのM4シャーマンの生産が既に十分な量に達していたことなどから、生産台数は188両で終了しました。その後、同社はセクストン自走砲の生産にシフトします。興味深いことに、セクストン自走砲のMk.II型は、グリズリー巡航戦車の車台を利用して製造されました。

グリズリー巡航戦車は実戦に投入されることはありませんでしたが、その技術や車体は他の兵器開発に活かされました。例えば、一部のグリズリー巡航戦車には、オードナンスQF 17ポンド砲が搭載され、訓練用車両として使用されました。また、グリズリー巡航戦車の車体を基にしたスキンク対空戦車の試作も行われたものの、量産には至りませんでした。

しかし、CDP履帯を装着したセクストン自走砲Mk.IIは、実戦で活躍しました。これは、グリズリー巡航戦車の開発によって得られた技術的成果が、間接的にではあるものの、戦場に貢献したことを示しています。

第二次世界大戦後、余剰となったグリズリー巡航戦車とセクストン自走砲はポルトガルに売却され、1980年代までポルトガル軍で使用されました。これは、グリズリー巡航戦車がカナダ国外でもその存在感を示した一つの事例と言えるでしょう。

グリズリー巡航戦車は、生産数こそ少なかったものの、カナダ独自の戦車開発技術を示す重要な存在です。その軽量で機動性に優れたCDP履帯は、戦車設計における一つの革新的な試みであり、後世の戦車開発にも影響を与えた可能性があります。また、本車の車台がセクストン自走砲など他の兵器に転用されたことは、資源の有効活用という観点からも注目に値します。グリズリー巡航戦車は、第二次世界大戦におけるカナダの戦車開発の歴史を語る上で、欠かすことのできない存在と言えるでしょう。

もう一度検索