グレンとグレンダ

エド・ウッドの異色作『グレンとグレンダ』：性同一性と服装倒錯の葛藤

1953年、後の「史上最低の映画監督」として名高いエド・ウッドによって世に送り出された『グレンとグレンダ』。この映画は、性同一性や服装倒錯といった当時タブーとされたテーマを正面から捉えた、異色のドキュメンタリードラマです。監督であるウッド自身の半自叙伝的な要素も強く、彼の複雑な内面を反映した作品となっています。

時代の偏見と葛藤する主人公

物語は、服装倒錯が社会から強い差別を受けていた時代に生きるグレンという人物を中心に展開します。グレンは、婚約者のセーターを身につけ「グレンダ」として街を歩くことを喜びとしていましたが、自身の性への違和感を抱え、悩みに苦しんでいました。そんな中、彼は「人形使い」と呼ばれる科学者に相談し、心理的な分析を受けます。

科学者は、同性愛、半陰陽、性同一性障害など、様々な性的問題を比較検討しながら、グレンの服装倒錯とそれらの違い、そしてグレンが「正常な人間」であることを力説します。最終的に、グレンは科学者から祝福を受け、服装倒錯者として生きることを受け入れるという、ある意味で肯定的な結末を迎えます。しかし、この過程で描かれる心理描写は現代の視点から見ると、必ずしも適切とは言えない部分もあります。

低予算ながら個性光る演出

『グレンとグレンダ』は、低予算映画特有の粗削りな作りが特徴です。一見無関係な場面が次々と繋げられ、バッファローの暴走シーンなどの既存フィルムも使用されています。科学者が意味深な警告を叫んだり、グレンダとなった主人公が街を闊歩したり、女性服を愛撫したりするシーンなど、独特の演出が散りばめられています。

この一見意味不明な構成は、当時の社会通念に反するウッド自身の主張を反映していると考えられます。性転換手術を受けたクリスティーン・ジョーゲンセンの存在がアメリカで話題になったことをきっかけに製作された本作品ですが、ジョーゲンセン自身は出演を拒否。そのため、ウッド自身が主演を務め、自身の経験に基づいた物語へとシフトしていったと考えられます。

キャストとスタッフ

主演のグレン／グレンダ役をウッド自身（ダニエル・デイヴィス名義）が演じ、ベラ・ルゴシが「科学者／人形使い」役で重要な役割を担っています。他にも、ドロレス・フラー、ティム・ファレルなど、個性的なキャストが脇を固めています。監督・脚本はエド・ウッド自身、製作はジョージ・ワイスが務めています。

複雑な製作経緯と公開

完成した作品は、当初の予定より短く、内容も大きく異なっていたため、ウッドは追加撮影を行い、再編集しました。さらに、プロデューサーのウェイスは、一部シーンをカットし、ソフトコアシーンやボンデージシーンを追加するなど、公開に向けて様々な変更が加えられています。最終的に、多くの映画館への販売済みの状況を鑑み、公開にこぎつけたとのことです。

映画史に残る問題作

『グレンとグレンダ』は、その意味不明なストーリー展開と、時代錯誤な性描写、そして低予算映画特有の粗雑な作りなどから、多くの映画批評家から酷評されました。しかし、その奇抜さ故に、B級映画マニアの間ではカルト的な人気を博し、現在ではパブリックドメインとして公開されています。

その後、様々なリメイク版や、ティム・バートン監督による『エド・ウッド』のような作品に影響を与え、映画史に名を刻む問題作となりました。この映画は、低予算映画の限界と可能性、そして一人の映画監督の複雑な内面を映し出す、まさにエド・ウッド作品らしい異色作と言えるでしょう。

もう一度検索