グロリア (U2の曲)

グロリア (Gloria)

U2の楽曲「グロリア」は、1981年に発表されたセカンドアルバム『October』のオープニングトラックであり、同アルバムからのセカンドシングルとしてリリースされました。この曲は、後の世界的なスタジアムバンドへと成長するU2の初期キャリアにおいて、その音楽性と共に、メンバーの精神的な探求を深く反映した重要な作品です。

創作の背景とテーマ

『October』というアルバム全体がそうであるように、「グロリア」もまた、当時のボノ、エッジ、ラリー・マレン・ジュニアが直面していた信仰と、ロック活動という世俗的な道の間の葛藤や模索を色濃く映し出しています。彼らの信仰は、彼らが形成しつつあった音楽スタイルとどのように両立するのか、という問いが楽曲の根底に流れています。タイトルの「Gloria」はラテン語で「栄光」、特に「神の栄光」を意味し、この言葉自体が楽曲全体の宗教的なテーマ性を象徴しています。歌詞全体に、信仰への切なる思いや、神との関係性を見つめ直す視点が織り込まれています。

歌詞の特徴とインスピレーション

この楽曲の最も印象的な要素の一つに、サビで繰り返されるラテン語のフレーズ「Gloria in te Domine / Gloria exultate」があります。「主において栄光あれ / 大いに喜べ、栄光あれ」といった意味合いを持つこのフレーズは、ボノがかつて友人であるポール・マクギネスから借りたグレゴリオ聖歌のレコードに触発されたものです。興味深いのは、当時のボノがラテン語を理解していなかったため、このフレーズの意味を知るために、マウント・テンプル・スクール時代の同級生や先生に協力を仰ぎ、翻訳してもらったというエピソードです。歌詞の中には、このラテン語の祈りの他にも、「Only in You I'm complete（あなたの中にだけ、私は完全となる）」や「The door is open / You're standing there（扉は開いている / あなたはそこに立っている）」といった、聖書からの直接的な引用や、それにインスパイアされた言葉が随所に散りばめられており、楽曲全体の宗教的な色合いを深めています。また、この曲は、パティ・スミスによるカバーを通してボノが知ったという、ヴァン・モリソンの同名異曲「Gloria」からも、その精神的なエネルギーや表現方法において影響を受けていることが指摘されています。ロックと信仰という異質な要素を結びつけようとする試みは、当時のU2の音楽性の大きな特徴の一つでした。

音楽的な構成

音楽的な側面では、「グロリア」はベーシストであるアダム・クレイトンが、U2の楽曲として初めて本格的なベースソロを披露した記念すべき一曲として記憶されています。アダムのベースラインは楽曲全体の推進力となり、特に中盤で展開されるソロパートは、楽曲に力強さと個性を加えています。他のメンバーの演奏も、ボノの情熱的なヴォーカル、エッジによる特徴的なディレイを効かせたギターワーク、ラリーの堅実なドラミングと相まって、初期U2サウンドの典型を示しています。シンプルなリフから徐々に高揚していく構成は、楽曲のテーマである精神的な高まりを表現しているかのようです。

ミュージックビデオの役割

「グロリア」のために制作されたミュージックビデオは、バンドのキャリアにおいて非常に重要な役割を果たしました。監督はメイアート・エイヴィスが務め、その撮影場所もユニークでした。レコーディングが行われたウインダム・レーン・スタジオのすぐ近くを流れるグランド・セントラル運河に浮かべられた荷船の上で撮影されたこのビデオは、当時の音楽業界においてミュージックビデオがまだ一般的ではなかった時代にあって、その斬新さとU2のエネルギッシュなパフォーマンスがあいまって注目を集めました。結果として、このビデオクリップは新たに開局した音楽専門チャンネルMTVで集中的に放送される（ヘビーローテーションされる）こととなり、U2の名をアメリカをはじめとする世界中の多くの視聴者に知らしめることに成功しました。このビデオの広範な露出は、バンドの認知度を飛躍的に向上させ、その後の国際的な成功に向けた重要な足がかりとなりました。荒削りながらも初期のバンドの勢いを捉えた映像は、今なお印象深いものとして語られます。

ライブパフォーマンスにおける歴史

「グロリア」は、ライブで非常に人気のある楽曲でした。アルバム『October』の発表に伴うツアーから始まり、『Lovetown』ツアーの中盤まで、数多くのライブで演奏され、その総演奏回数は350回を超えます。初期のU2のライブにおける定番曲として、観客との一体感を生み出すパワフルなパフォーマンスは、ライブバンドとしての評価を高める上で重要な役割を果たしました。しばらくの間、ライブセットリストから外されていた時期もありましたが、2005年から始まった『Vertigo』ツアーで再び復活を果たしました。その後も、『Innocence + Experience』ツアーなどで演奏され、特に後者のツアーでのパフォーマンスでは、楽曲のルーツの一つとされるヴァン・モリソンの「Gloria」の一部を挿入するなど、進化を見せました。長きにわたりライブで愛され続けていることは、「グロリア」が持つ楽曲としての魅力と、聴衆との強いつながりを証明しています。

受けた評価

「グロリア」は、リリース当時から好意的な評価を受けています。例えば、1981年末には、アイルランドの主要な音楽誌である『ホットプレス』の読者投票によって、その年の年間ベストアイリッシュシングル第4位に選ばれています。これは、彼らの母国において早くからこの楽曲が重要な作品として認識されていたことを示しています。また、時代を経て2006年には、アメリカの保守系雑誌『ナショナル・レビュー』が選んだ「歴代ベスト保守ロックソング」の第6位にランクインするという、独特な評価も受けています。これらの評価は多岐にわたりますが、「グロリア」が単なる初期のヒット曲に留まらず、様々な視点からその価値を認められていることを物語っています。

結論

「グロリア」は、U2のセカンドアルバム『October』を象徴する楽曲であり、初期の彼らを理解する上で欠かせない一曲です。メンバーの内面的な葛藤や信仰への問いかけが込められた歌詞、ラテン語を取り入れた革新性、アダム・クレイトン初のベースソロ、そして当時のメディア環境におけるミュージックビデオの戦略的な活用、さらには長年にわたるライブでの人気の高さなど、多くの要素が絡み合ってこの楽曲の意義を形作っています。「グロリア」は、U2が単なるロックバンドではなく、精神性やメッセージ性を追求するアーティスト集団であることを初期から示していた証であり、彼らのキャリアにおける重要なターニングポイントの一つと言えるでしょう。

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