ケロッグ博士 (映画)

ケロッグ博士：コーンフレーク発明者の知られざる物語

1994年、アラン・パーカー監督によって映画化された『ケロッグ博士』（原題：The Road to Wellville）は、コーンフレーク発明で知られるジョン・ハーヴェイ・ケロッグ博士の生涯を、ブラックコメディとして描いた作品です。T・コラゲッサン・ボイルの同名小説を原作とし、アンソニー・ホプキンス、ブリジット・フォンダ、マシュー・ブロデリックら豪華俳優陣が出演しています。

映画は、ケロッグ博士が経営する療養施設「バトル・クリーク・サナトリウム」を舞台に、彼の奇抜で極端な健康法の数々が描かれています。禁欲主義を信奉する博士は、患者たちに徹底した食事制限や過酷な健康プログラムを課し、その過程で様々な騒動が巻き起こります。映画全体を通して、時代考証に基づいた細やかな美術表現が随所に施され、当時のアメリカ社会の文化や風俗を垣間見ることができます。特に、患者たちの服装や施設の造作、そして療養施設の独特な雰囲気は、時代劇を見ているかのような錯覚すら覚えます。

映画は、ケロッグ博士の業績と、彼の人格や行動の両面を対比的に描いています。コーンフレークの発明は、現代社会においても重要な業績として認識されていますが、映画では博士の歪んだ健康観や、それに伴う患者たちへの過酷な対応が皮肉たっぷりに表現されています。その一方で、映画は決して博士を単純な悪役として描くのではなく、彼の複雑な内面や、時代の制約の中で葛藤する姿も描いています。

公開当時、この映画は賛否両論を巻き起こしました。特に、下品な描写やスカトロジー的表現に対する批判が多数寄せられ、Rotten Tomatoesでは39%という低い評価を得ています。ローリングストーン誌では、1994年公開映画ワースト5の一つに挙げられるなど、否定的な意見が目立ちました。しかし、一方で高く評価する声もありました。Bright Lights Film Journalのタンファー・エミン・タンクは、この映画を「20世紀のアメリカ社会で人種や階級がとったさまざまな形態に疑問を投げかける、ユーモアと文書化された歴史資料の洗練されたブレンド」と評しています。

日本では、映画評論家の淀川長治が本作を高く評価しました。彼は、映画の時代考証の正確さと、独特の美術表現を絶賛し、「アレが目的のゲス映画と思われそうだが、さにあらず、その時代色の美しさ、その登場者の時代衣装の美しさ。ボンネットに自転車にワルツにと、まるで西洋明治大正絵葉書を見るごとく、そのワイセツも江戸好色すごろくを遊ぶがごとく、この映画の時代美術の美しさに陶然となる」と述べています。さらに、全裸での治療シーンについても言及し、「オジサン族全員全裸で電気治療を受けての全裸のお尻のブルンブルン。これをアップ移動キャメラで見せるすさまじさ。その他オトコ、オンナの全裸にヒゲの男のフンドシ姿も続々。ウンコとカンチョウと男のあそこが立つ治療。映画美術の中に見るこのお遊び。見て見て笑いたまえ。ことし一番のケッサクよ！」と、独特の表現で称賛しています。

『ケロッグ博士』は、歴史上の人物を題材としながらも、アラン・パーカー監督の独特な演出と、豪華なキャスト陣の演技によって、ユーモラスでかつ考えさせられる作品に仕上がっています。コーンフレークという身近な食品の発明者の人生を、ブラックコメディという手法を通して再解釈した、異色の歴史映画と言えるでしょう。

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