ゲオルク・フォルスター

ヨハン・ゲオルク・アダム・フォルスター：啓蒙の時代を駆け抜けた博物学者

ヨハン・ゲオルク・アダム・フォルスター (1754年11月27日 - 1794年1月10日) は、ポーランド出身の博物学者、民俗学者、旅行家、ジャーナリストであり、革命家としても知られています。イギリス移民の子として生まれた彼は、学者の父と共にイギリスへ渡り、幼少期から科学探検に携わりました。

彼の名を不朽のものとしたのは、ジェイムズ・クック船長の二度目の太平洋航海(1772年-1775年)への参加です。この航海で得られた経験と観察に基づいた航海報告書は、ポリネシアの民俗学研究に多大な貢献を果たしました。詳細な記録と鋭い分析は、科学者のみならず一般読者からも高い評価を受け、フォルスターを近代科学的旅行文学の創始者と位置づける評価につながっています。

22歳の若さでイギリス王立協会の会員に選出されたフォルスターは、その後、ヴィリニュス大学で自然史の教授、マインツ大学では司書部長(博物学教授)として活躍しました。彼はドイツ啓蒙思想の中枢に位置し、ゲオルク・クリストフ・リヒテンベルクなど、多くの啓蒙思想家と交流を持ちました。その思想と人となりは、後の19世紀ドイツを代表する科学者、アレクサンダー・フォン・フンボルトにも大きな影響を与えたとされています。

フォルスターは1789年のフランス革命を熱烈に支持し、「哲学と理性の勝利」と見なしました。しかし、歴史の皮肉な側面として、彼の革命支持が悲劇的な結末を招くことになります。1793年7月、フォルスターはフランス革命軍によって樹立されたばかりのマインツ共和国の代表としてパリに滞在していました。しかし、マインツがプロイセンとオーストリアの連合軍に占領されると、フォルスターは法の保護の外に置かれ、ドイツにいる家族や友人とも会うことができませんでした。そして、1794年1月、パリで病死しました。わずか39年の生涯でしたが、彼の残した著作と思想は、今もなお人々の心に深く刻まれています。

彼の著作は、多岐に渡り、日本でも翻訳されたものが複数存在します。例えば、『世界周航記』は複数の翻訳版があり、彼の航海における詳細な観察記録や、ポリネシアの文化に対する深い洞察が読み取れます。また、『ニーダーラインの光景』は、彼が旅を通して観察した自然や社会の様子を記したものであり、彼の鋭い観察眼と表現力の豊かさを示す貴重な資料です。これらの著作を通して、フォルスターは単なる博物学者ではなく、時代を鋭く見据えた思想家、そして優れた文筆家であったことが分かります。

フォルスターの生涯は、啓蒙思想の隆盛とフランス革命という激動の時代を背景に展開されました。彼の活動は、科学探求への飽くなき情熱と、自由と理性を信じる強い意志を示すものでした。そして、彼の不幸な最期は、革命の理想と現実の残酷なギャップを象徴的に示しているのかもしれません。彼の業績は、科学史、思想史、そして旅行文学史において、重要な位置を占めていると言えるでしょう。

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