ゲロタ筋膜

ゲロタ筋膜（Gerota's fascia）とは、脊椎動物の体内に存在する、密性結合組織と呼ばれる丈夫な繊維性の組織からなる膜状の構造体です。この膜は、一般的に筋肉を覆う筋膜とは異なり、主に腎臓、その周囲を取り囲む腎周囲脂肪組織（脂肪被膜）、そして副腎といった臓器を覆っています。腎筋膜（renal fascia）という別名でも知られています。

位置と構造

ゲロタ筋膜は、体内の腹膜腔という空間から、腎臓などが存在する後腹膜腔へとアプローチする際に確認することができます。具体的には、お腹の中の壁側腹膜を開いて後腹膜に達すると、滑らかで光沢のある線維性の被膜として姿を現します。

この膜は、腎臓の周囲を完全に袋状に密閉しているわけではありません。構造的には、腎臓の前方にある層（前葉）と後方にある層（後葉）に分かれており、これらの層は腎臓のやや外側方で合流します。そして、この合流した膜はそこで終わるのではなく、さらに外側へと伸びていき、腹壁を構成する筋肉の内側を覆う横筋筋膜へと連続しています。この横筋筋膜への連続性が、この膜が線維膜（tunica fibrosa）ではなく「筋膜」と呼ばれる理由であると考えられています。

名称について

「筋膜」という名称は、一般的には骨格筋などの筋肉を包む膜を指しますが、ゲロタ筋膜の場合は筋肉そのものではなく、腎臓などの実質臓器とその周囲組織を包んでいます。しかし、前述のように腹壁の横筋筋膜と連続していることから、解剖学的な関連性や構造の連続性を重視して「筋膜」という名称が用いられていると理解されています。

参考文献

ゲロタ筋膜を含む人体各部の解剖学的知見は、多くの解剖学の教科書や図譜に記載されています。例えば、解剖実習の手引き書などでもその存在と位置が示されています。

* 寺田春水, 藤田恒夫. 『解剖実習の手びき』. 南山堂, 2004年.

ゲロタ筋膜は、腎臓や副腎の手術、あるいはこれらの臓器に関連する画像診断などにおいて、その構造や位置関係を理解することが非常に重要となります。その丈夫な構造は、感染の拡大を防ぐバリアとして機能することもあります。

この膜に関する詳細な解剖学的情報は、医学や解剖学の分野において基礎的な知識の一つとされています。

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