コスモス238号

コスモス238号

コスモス238号（Kosmos 238、ロシア語: Космоス 238）は、1968年に旧ソビエト連邦（ソ連）によって運用された無人宇宙船です。ソ連の有人宇宙飛行計画であるソユーズ計画の一環として実施された、極めて重要な技術検証ミッションでした。この飛行の最大の目的は、前年に発生したソユーズ1号の痛ましい事故を受けて、ソユーズ宇宙船に施された包括的な安全および信頼性向上策が、宇宙空間で設計通りに機能するかを最終確認することにありました。

1967年4月、ソユーズ1号は飛行中に様々な技術的問題に直面し、特に地球への帰還時、パラシュートシステムの不具合により宇宙船が墜落し、搭乗していた宇宙飛行士ウラジーミル・コマロフが殉職するという重大事故を引き起こしました。この悲劇はソユーズ計画に大きな影響を与え、その後の有人飛行は一時的に停止され、事故原因の徹底的な調査と、それに続く宇宙船の設計および運用プロセスの抜本的な見直しが行われました。

コスモス238号は、こうした状況下で、改良が施されたソユーズ7K-OK型宇宙船の信頼性を実証するための、ソユーズ3号の打ち上げに先立つ最後の無人試験飛行として位置づけられました。この試験機は、質量が6,520kgであり、無人でのミッション遂行能力が求められました。打ち上げは1968年8月28日10時04分00秒（協定世界時）に行われました。宇宙船は、地球を周回する軌道に投入され、その軌道パラメータは近点194km、遠点313km、軌道傾斜角51.7度、軌道周期は約88.5分でした。

軌道上では、ソユーズ1号事故後に特に改良が加えられた主要システムが詳細に試験されました。具体的には、軌道マニューバシステム、大気圏再突入システム、そして降下着陸システムです。

軌道マニューバシステムでは、宇宙船の姿勢制御や軌道修正能力が検証されました。これは、将来的に他の宇宙船とのランデブーやドッキングを行う上で不可欠な技術であり、精密な制御性能が求められました。

大気圏再突入システムは、宇宙空間から地球大気圏へ突入する際のカプセルの挙動や熱防御、航行制御を評価するためのものでした。宇宙船を安全かつ正確に、計画された着陸地点へ誘導する能力が試されました。

そして、最も重点が置かれた試験の一つが降下着陸システムです。ソユーズ1号の事故原因となったパラシュートシステムの信頼性向上は最重要課題であり、コスモス238号では改良型のパラシュートが設計通りに展開し、カプセルを減速させられるかが厳密に確認されました。また、地表への衝撃を和らげるための軟着陸用逆噴射ロケットなども含め、着陸に向けた一連の複雑なシーケンス全体が試験されました。

コスモス238号のミッションは、計画された全ての試験項目を成功裏に完了させた後、1968年9月1日09時03分00秒（協定世界時）に地球への帰還を果たしました。この無人試験飛行の成功は、ソユーズ1号事故後に実施された技術改良が有効であることを明確に示し、ソユーズ宇宙船の安全性が有人飛行を再開するに足るレベルに達したことを実証しました。この成功を受けて、ソ連は自信を持って、宇宙飛行士ゲオルギー・ベレゴヴォイを搭乗させた有人宇宙船ソユーズ3号の打ち上げを同年10月に行うことを決定しました。

コスモス238号は、ソユーズ計画が直面した大きな困難を乗り越え、再び有人宇宙飛行の道を切り拓く上で、技術的な基盤を確立した重要なマイルストーンとなるミッションでした。その飛行で得られた貴重なデータと経験は、その後のソユーズ宇宙船の発展と、ソ連およびロシアの有人宇宙開発の歴史において、長く貢献し続けることになります。

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