コスモス557号

コスモス557号（DOS-3）

旧ソビエト連邦が推進した宇宙ステーション計画、サリュートにおいて、3番目に位置づけられていた機体が「コスモス557号」として知られる機体です。これは開発名称ではDOS-3と呼ばれていました。本来の計画では、この機体は打ち上げ後に「サリュート3号」として命名され、有人宇宙活動の拠点となるはずでした。

打ち上げと突然の終焉

DOS-3は、1973年5月11日にバイコヌール宇宙基地からプロトンロケットによって宇宙へと打ち上げられました。この日は、アメリカが初の宇宙ステーション「スカイラブ」を打ち上げたわずか3日後のことでした。東西の宇宙開発競争が激化する中で行われたこの打ち上げは、ソ連にとって重要なマイルストーンとなるはずでした。

しかし、打ち上げられた機体は計画通りに軌道へ投入されませんでした。深刻な技術的問題が発生したためです。軌道へ向かう途中で、機体が地上管制の通信範囲外を飛行している間に、姿勢制御システムの誤作動が発生しました。具体的には、機体の向きを調整するための小型スラスタが異常な噴射を続け、搭載されていた推進剤を短時間で全て消費してしまったのです。この制御不能なスラスタ噴射により、機体は本来到達すべき安定した軌道高度に達する前に、姿勢を完全に失い、制御不能な状態に陥りました。

偽装と隠蔽

打ち上げられた機体はすぐに西側諸国のレーダーによって捕捉されました。軌道上にソ連の新しい大型機体が存在することは明らかでした。しかし、機体が制御不能に陥り、計画の失敗が濃厚となったソ連当局は、この事実を隠蔽することを決定します。

失敗した宇宙ステーションの打ち上げであったことをカモフラージュするため、この機体には公式に「コスモス557号」という名称が与えられました。コスモス衛星は、偵察衛星や通信衛星など、幅広い目的の機体に与えられる一般的な名称であり、特定の重要な計画の失敗を悟られにくくするためにしばしば利用されました。サリュート計画のような有人宇宙活動に関連する機体名を避けることで、その重要度を低く見せかけようとしたのです。

制御不能となったコスモス557号は、打ち上げからわずか1週間後の1973年5月26日には地球の大気圏に再突入し、その短い生涯を終えました。計画されていた長期にわたる有人宇宙活動を実現することなく、機体は文字通り燃え尽きたのです。

後に明かされた真実

この機体が実はサリュート計画の一部であり、本来サリュート3号となるはずだったDOS-3であったという事実は、ソ連時代には公式には認められませんでした。西側の専門家たちは、機体の軌道や質量などからその正体にある程度の推測を立てていましたが、それがサリュート計画の宇宙ステーションであったとソ連側が公式に認めたのは、ずっと後のこと、冷戦終結後になってからでした。

コスモス557号の失敗は、サリュート計画にとって予期せぬ打撃となりました。しかし、ソ連はすぐに体制を立て直し、次のサリュート3号（本来の4号機にあたる軍事用ステーション）の打ち上げを成功させ、サリュート計画自体はその後も継続されました。

コスモス557号は、ソビエト宇宙開発の歴史における知られざる失敗の一つであり、当時の宇宙開発競争とそれに伴う情報戦略の一端を示す事例として記憶されています。その存在は短く、本来の目的を果たすことはありませんでしたが、ソ連の宇宙ステーション開発史において重要な、そして教訓的な位置を占める機体と言えるでしょう。

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